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中谷潤人の“残酷なボディ”一撃で挑戦者が悶絶「呼吸ができなかった」…戦慄の157秒KOはなぜ起きた? 井上尚弥戦実現へ「もっと大きくなる」
posted2024/07/21 17:00
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
WBC世界バンタム級タイトルマッチが7月20日、東京・両国国技館で行われ、チャンピオンの中谷潤人(M.T)が挑戦者1位のビンセント・アストロラビオ(フィリピン)に1回2分37秒KO勝ち、初防衛に成功した。ボディ打ち一発で試合を終わらせる圧巻の内容は「中谷強し」を強烈に印象づけた。気鋭のチャンピオンはどのように進化を続けているのか、そして今後どこに向かうのか。将来の展望にまで迫る。
挑戦者を悶絶させた「感触のないボディ」
決して荒々しいパンチではなかった。「スッ」という表現を使いたくなるような、滑らかで、自然な動きから生まれたパンチだった。初回、残り30秒ほど。サウスポースタイルの中谷が右ジャブからつなげた左ストレートが真っ直ぐにアストロラビオのみぞおちあたりに突き刺さる。タイトル奪取に燃えていたフィリピン人の動きがピタリと止まり、次の瞬間、苦しげな表情とともにキャンバスに転がった。
まさかの展開に場内がざわつく。アストロラビオは辛うじて立ち上がったが、「呼吸ができなかった」。再びひざを折ってうずくまると、レフェリーが「仕方がないね」といった顔つきで両手を頭の上で交差させた。
「柔らかくて感触はなかった」
試合後、中谷はフィニッシュブローをそう振り返った。穏やかな口調と「柔らかい」という言葉が残酷に響く。「パンチが見えなかった」という挑戦者は顔面へのパンチを防ぐことに集中していた。王者がその裏をかいたのだ。言葉にしてしまえばあまりに簡単な印象だが、そこには両者のさまざまな思惑が隠されていた。
試合が始まり、まず目についたのが中谷の姿勢だ。いつもより腰を落とし、どっしりとした印象を与える。ただでさえ懐が深いのに、さらに深い。今回、中谷の掲げたテーマが「強いパンチを打つこと」だった。練習ではスパーリングの量を減らし、サンドバッグで強いパンチを打つことにフォーカスした。
「そのためには重心を落とすこと。強いパンチを打とうとすると、どうしても力んでしまうので、肩の力を抜くことがポイント。パンチを“打つ”のではなく“投げていく”イメージです」