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中上貴晶32歳、来季はテストライダーに…「次の日本人が活躍するときが来た」と語る小椋藍への思い《シートを受け継ぐのはタイの英雄チャントラ》 

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遠藤智

遠藤智Satoshi Endo

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posted2024/08/21 11:01

中上貴晶32歳、来季はテストライダーに…「次の日本人が活躍するときが来た」と語る小椋藍への思い《シートを受け継ぐのはタイの英雄チャントラ》<Number Web> photograph by Satoshi Endo

MotoGPクラス7年目にして決断を下した中上。これまで4位は3回あるが、いまだ表彰台には上がっていない

 加えてMotoGPクラスにおける中上は、35歳のアレイシ・エスパルガロ(アプリリア)と34歳のザルコに次ぐベテランで、今年は「もう32歳、こんなレースをやっているとモチベーションも続かないし、ライダーとして決断の時」と何度も口にしてきた。

 中上に他メーカーのオファーはなく、スーパーバイクなど他のカテゴリーでシートを探して現役生活を続けることは「考えていない」とキッパリ。一方で「引退も視野に入れている?」という質問には、「わからない」と揺れ動く心境を語ってきた。

 ホンダは低迷するメーカーに与えられる、テスト日数やマシン開発の制限を排除した「コンセッション」ルールを最大限に活用し、マシンの開発に全力を尽くしている。来季も2チーム4人体制での参戦となるが、すでにザルコ、ミル、マリーニは来季も継続参戦が決まっており、残るはIDEMITSU Honda LCRのシートだけ。ホンダは来季こそ乗せたいと小椋を慰留したが、彼の決断は揺るがなかった。

 次なる候補として以前から名前が挙がっていたのがチャントラだ。ホンダはこれまで、日本人をひとりはMotoGPに参戦させてきたが、それがついに途絶えることになる。

タイの国民的英雄

 チャントラはホンダとドルナが14年にスタートさせたアジアタレントカップの出身で、IDEMITSUがサポートするカテゴリーで育ってきた。小椋とはアジアタレントカップからのライバルで、22年インドネシアGPのMoto2クラスでタイ人としては初のグランプリ制覇。通算6回の表彰台を獲得し、来季はIDEMITSU Honda LCRとして初めてMotoGPに参戦するライダーとなる。

 母国タイではすでに国民的英雄であり、毎年開催されるタイGPではトップライダーと肩を並べるスーパースターとなる。そんなチャントラのMotoGP参戦はアジアの若いライダーたちにとって大きな刺激になることは間違いない。小椋の昇格もあり、来季はアジアタレントカッププロジェクトの集大成となる。

 シーズンは残り9戦。先週のオーストリアGPで14位になりホンダ勢最上位でフィニッシュした中上は、「プラクティス、予選と苦戦したが決勝は気持ち良く乗れた。レース前のフリー走行で思ったとおり、ホンダ勢トップでゴールできてうれしい」と笑みを浮かべた。

 1992年2月9日生まれの中上は国内では無敵を誇り、加藤大治郎をしのぐ天才と言われた。舞台をMotoGPに移してからは日本人選手最多となる通算253戦を戦い、とりわけMotoGPクラスではバレンティーノ・ロッシ、マルケス、ダニ・ペドロサ、ホルヘ・ロレンソといった天才ライダーたちと時代を共にしてきた。チャントラの昇格が正式発表されれば、レギュラーライダーとして日本GPに出場するのは今年が最後になる。

 オーストリアGPの決勝レースが終わった後、「今日のホンダベストというリザルトは来年に向けてプラスになるの?」と声を掛けると、中上は「……だといいんですけどね」と明るく笑った。

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