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「意識不明の重体…早朝のニュースを見て驚いた」赤井英和をぶっ倒したボクサーを待ち受けていた波乱万丈の人生「ファイトマネー35万円の代償」
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byBBM
posted2024/08/22 11:01
1985年2月5日、赤井英和をKOした大和田正春の左フック。「拳の感覚はいまも覚えている」
ジム関係者には引退することを告げ、練習にも顔を出さなくなった。
平日は真面目に工場勤めをしていたが、土曜日はまた飲み歩くようになった。育ての親が待つアパートに帰宅するのは、朝日が昇る頃である。伯母の久子さんは何歳になっても自堕落な生活を許さなかった。いつの日かと同じように竹刀で滅多打ちにされ、一喝された。
「『正春、いったい何を考えているんだ』って」
24歳の夏だった。一度立ち止まり、ボクシングに対する思いを自らに何度も問いかけた。
「じっくり考え直すと、『またやりたい』という気持ちがあったんですよね。なんか心の底から湧き上がってくるものがあって。リングの上で相手がどうなろうともう関係ない。あのことを忘れたんですよ。いや、忘れることができた、と言ったほうがいいかもしれない」
番狂わせの記憶を頭の片隅に追いやり、9勝9敗1分けからの再出発。そして、始まった第2のボクシング人生にも、悲喜こもごものドラマが待っていた――。
(第3回に続く)