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「意識不明の重体…早朝のニュースを見て驚いた」赤井英和をぶっ倒したボクサーを待ち受けていた波乱万丈の人生「ファイトマネー35万円の代償」

posted2024/08/22 11:01

 
「意識不明の重体…早朝のニュースを見て驚いた」赤井英和をぶっ倒したボクサーを待ち受けていた波乱万丈の人生「ファイトマネー35万円の代償」<Number Web> photograph by BBM

1985年2月5日、赤井英和をKOした大和田正春の左フック。「拳の感覚はいまも覚えている」

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杉園昌之

杉園昌之Masayuki Sugizono

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 1985年2月5日、関西で絶大な人気を誇った『浪速のロッキー』の世界前哨戦は大きなニュースになった。咬ませ犬とも揶揄された日本ランカーの大和田正春が衝撃的なKO勝利を収め、キャンバスに沈んだ世界ランカーの赤井英和は生死をさまよう重傷を負い、そのまま現役引退を余儀なくされた。その後、奇跡的に回復した赤井は俳優に転向して成功したが、一躍脚光を浴びたボクサーはどのような人生を送ったのか――。あれから39年、63歳となった本人の元を訪ねた。【NumberWebノンフィクション全3回の2回目】

 1985年2月5日、大阪府立体育館の血気盛んな観客は、東京から来た褐色のボクサーに容赦なかった。

「大和田、何しに来たんや」

 大きなヤジは、しっかり耳に入ってきた。普段は気の優しいスキンヘッドの男もグローブを付けると、拳闘家になる。大和田正春は気持ちがぐっと高ぶり、心の中で叫んだ。

「お前らが応援しているヒーローをぶっ倒しに来たんだよ」

 担当の荻原繁トレーナーから試合前に作戦の確認事項が書かれたメモを渡されていたが、リングに入ると、頭からほとんど飛んでいた。“咬ませ犬”と揶揄された日本ランカーも、絶大な人気を誇る世界ランカーも関係ない。目の前にいる赤井英和を倒すことだけに集中し、「練習してきたものを出せば、勝てるんだ」と自ら言い聞かせた。

「こっちの拳も壊れるぐらいだから…」

 大観衆に後押しされた『浪速のロッキー』は開始のゴングと同時に果敢に攻めてきたが、大和田は落ち着いていた。ぶんぶん振り回してくる大きなフックをかわし、的確に左ジャブをヒットさせる。

 そして、迎えた4回。強引に突っ込んでくる赤井に対し、とっさに体が反応した。練習してきたアッパー気味の左フックがクリーンヒット。相手の足元がふらつくと、すかさず連打を浴びせる。ずるずると後退した相手を逃さなかった。追いかけるように鋭い右ストレートをスパンと打ち込む。

 スローモーションのようにコーナーにゆっくりと倒れていく赤井の姿は、いまも脳裏に残っている。右の拳を強く握りながら、しみじみと振り返る。

「あの右ストレートは打ち抜いたというよりも、鼻先に当たった感じでした。いまも感触が残っているので。その前からかなり効いていたはずです。赤井さんは立っているのもやっとだったと思います。でも、俺もすでに右の拳が痛くてしょうがなくて。実際、骨が折れていましたので。こっちの拳が壊れるくらいだから、赤井さんの頭も相当へこんでいるはずだって思っていました。試合中はそう思わないと、やってられなかったです」

【次ページ】 冷静だった大和田「まだ赤井の目は死んでない」

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