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「俺のこと恨んでいると思っていた」赤井英和を病院送りにした“噛ませ犬”大和田正春はいま…「“浪速のロッキー”の脳が揺れた鮮烈の左フック」
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byBBM
posted2024/08/22 11:00
1985年2月5日、大和田正春にKO負けを喫する赤井英和。試合後、意識を失った赤井は緊急搬送された
年が明けて、赤井戦がいよいよ迫ると、定時制高校の1年生から勤めている高松電鍍工業の同僚には体の心配をされた。
「『ゴングが鳴ったら、すぐに寝ちゃいなよ。あの赤井と試合ができただけでもいいんじゃないの』と。勝てるわけがないんだから、という感じでした。僕がダメージを負って会社を長く休むと、みんなも困りますしね。あのときは頭にきましたよ。俺は毎日、しんどい練習をしてきたんだぞって。悔しくて、悔しくて、絶対に勝ってやると思いました」
迎えた運命の2月5日。大阪府立体育館(現エディオンアリーナ大阪)には約5500人が詰めかけ、会場は熱気に包まれていた。テレビ中継が入り、ノンタイトルのウェルター級10回戦とは思えないほどの盛り上がりである。観客のほとんどが『浪速のロッキー』のKO劇に期待を寄せている空気を肌で感じた。
控え室を出た大和田は狭い通路を歩き、入場口に立つと、リングが遠くに見えた。予想以上に花道が長い。ゆっくり歩いてリングに向かうさなか、痛烈なヤジが四方八方から飛んできた――。
(第2回につづく)