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《女子ボクシング性別騒動》「彼女の態度は恥」棄権→挨拶拒否→号泣イタリア人もケリフも…誹謗中傷と「Webでの識者コメント」にえぐられる心
posted2024/08/05 11:00
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Anadolu/Getty Images
「ノネ・ジュスト(こんなの間違ってる)!」
リング上のアンジェラ・カリーニ(イタリア)は涙声で何度も小さく叫んだ。
1日、パリ五輪・女子ボクシング競技66kg級の試合で、彼女はイマネ・ケリフ(アルジェリア)と対戦した。ケリフはIOCが参加を認定した“インターセックス”選手だ。“性染色体や性ホルモン、外性器等の生来性的特徴に先天的変動性を持つ人”と定義されている。
試合開始のゴングの後、ケリフが出した2発のパンチを顔面にもらったカリーニは、わずか46秒で棄権した。規則に従い、レフェリーがケリフの左手を掲げた後、カリーニは彼女と目を合わせず、マットに膝をついて涙を流した。
カリーニの棄権は五輪にくすぶるジェンダー問題にあらためて火をつけ、イタリアやアルジェリアを巻き込み、論争を過熱させている。
女性首相の擁護には“政治的アピール”説も
五輪視察のためにパリ市内のイタリア代表団本部を訪れていた女性首相ジョルジャ・メローニは、カリーニの棄権が発覚した直後、彼女を全面擁護するコメントを出した。
「アンジェラ・カリーニの行動を高く評価したいと思います。私の見解では、同じ武器で戦う試合ではなかった。ここ数年、IOCのやり方は目に余ります。男性のDNAを持つ者を女性の競技に参加させるべきではありません。誰かを差別するのではなく、女性アスリートがイコールコンディションで競技できる権利を守るために申しているのです」
カリーニの本職は国家警察隊隊員、つまり公務員だから首相が国家の長として彼女を擁護したのは当然だが、右派の領袖メローニがこの事件を票田である保守派への政治的アピールに利用したいのでは、という憶測も見え隠れする。
「五輪精神は腐敗」「彼女の態度は恥」と賛否両論
スポーツ大国イタリアでは、五輪ともなれば挙国一致体制で自国選手を応援するのが常だ。
保守派の首相コメントに便乗して、イタリアのSNS上では「茶番劇を棄権して正解だった」「オリンピック精神は腐敗した」といったIOC批判の投稿が次々にバズっている。
だが、カリーニ擁護一辺倒というわけでもない。