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「アカサキ!」英語実況もビックリ「彼は今、先頭を走っています」“超過酷なパリで激走”マラソン・赤崎暁が世界を驚かせた日「あの日本人は誰なんだ」
text by
齋藤裕Yu Saito
photograph byRyosuke Menju/JMPA
posted2024/08/18 11:02
世界的には“ほぼ無名”の存在ながら、パリ五輪の男子マラソンで6位入賞を果たした赤崎暁。2時間9分台だった持ちタイムも「2時間7分32秒」まで更新した
レース後の本音「ひっそりとパリを楽しもうと…」
28km過ぎ、首位から陥落した坂で体は悲鳴を上げていた。ハムストリングがつりかけたのだ。それでもその後の15km近く持ちこたえられた要因について、赤崎は感謝を込めて2人の名前を挙げる。
ひとりは九電工の綾部健二総監督。坂でさんざん鍛えられた。
「本当にこの3カ月間、やめたいほど坂練習を綾部(健二)さんにやらされてきたので(笑)。登りきった後の下りで練習でも一気にペースを落とさないようにというのでやってきて、(その練習が)活きたなと思いますし、坂は下りである程度挽回できるという思いがあった。綾部さんのおかげで今回、入賞することができました」
もうひとりはライバルの存在。長崎市出身の山下一貴(三菱重工)。2023年の世界選手権では残り2kmで左足のふくらはぎがつってしまい7つ順位を落とし、入賞を逃した。世界トップ8に手が届きかけた戦友からレース前にメッセージをもらっていた。
「昨日の夜と今日の朝に一貴からは『つらないようにバナナ食っとけよ』って。それでバナナを食べたので、一貴のおかげでつらずに済んだのかなと思います(笑)」
レース中、最初に後ろを振り返ったのは40km付近。「後ろに誰がいるか分からなかった」というほど相手を気にせず、自分のやりたいように走れたと胸を張る。結果的に自己ベストを2分近く更新してみせた。日本人が五輪史上最難関とされたコースを攻略したことについて問われると、言葉を選んでこう答えた。
「こう言うと、皆さん、どうとってもらえるかわからないですけど、自分より上の選手はいっぱいいる。なので、自分が6位で入賞できたということは、もっと上の順位で日本の選手はゴールできるのかなと思います」
日本勢でトップとなっても、自らを「格下」と言い張る。そのうえで自分だけでなく、他の選手にも期待を寄せる。勝負強さも本人の分析によれば「注目されていないからですかね」。屈託なく笑いながら、こう続けた。
「僕はもうひっそりとパリを楽しもうと思ったので、その結果がこうなって良かったです(笑)」
ひっそりとパリを楽しむつもりだったのか。本人の思いとは裏腹に、先頭を走るその姿は世界の視聴者の記憶に刻まれたはずだ。日本選手の可能性とともに。
<「田中希実編」とあわせてお読みください>