オリンピックPRESSBACK NUMBER
「アカサキ!」英語実況もビックリ「彼は今、先頭を走っています」“超過酷なパリで激走”マラソン・赤崎暁が世界を驚かせた日「あの日本人は誰なんだ」
text by
齋藤裕Yu Saito
photograph byRyosuke Menju/JMPA
posted2024/08/18 11:02
世界的には“ほぼ無名”の存在ながら、パリ五輪の男子マラソンで6位入賞を果たした赤崎暁。2時間9分台だった持ちタイムも「2時間7分32秒」まで更新した
「アカサキ!」声を張り上げた英語実況
中継映像は折り返し地点の23km、映し出されるヴェルサイユ宮殿。続けて、2番手の集団を捉える。英語の実況が大迫を見つけ東京五輪で6位と日本で知られた足跡を紹介。81人もランナーがいる中で、最下位を走るモンゴル選手まで経歴が丁寧に語られていく。
先頭集団の4人目に赤橙色のユニフォームが映る。目を凝らすと「AKASAKI」の名前が少し見えた。ヴェルサイユ宮殿を背に、曲がりくねった道を走る首位争いの一団、先頭から選手を読み上げる。エチオピアのタミラト・トラ、アメリカのコナー・マンツ、タンザニアのアルフォンス・シンブ……。
赤崎の名前が読まれない。ゼッケンの名前がカーブで前の選手に隠れてしまっているからだろうか。実況は言葉を失っている。スロー映像が流れるが、隠れているのは同じだ。数秒ほど放送事故に近い沈黙があったのち、先頭の別の選手を読み上げ、8人ほどで先頭集団を形成していることを伝える。あの4人目は誰なのか。謎のままレースが進む。
再びキプチョゲが苦しむ様子を伝えつつ、先頭集団にカメラが移る。
「アカサキ!」
実況が探しものを見つけたように声を張り上げる。
「かなり順調そうに見えますがどうでしょうか? メダル争いに絡めば日本の人は喜ぶでしょうね」
マークしていた日本人選手でなかったからか、日本のお国柄を語りはじめる。
「というのも、マラソンは、日本ではほぼ宗教のようなもので、リレー競技(駅伝)は、高視聴率を叩き出すスポーツのひとつとされています。彼自身、調子が良さそうですね」
解説者的なコメンテーターも「彼は強そうです。良いペースで動いていますよ」と付け加えた。
そうこうしているうちに赤崎は徐々に先頭へ迫っていく。4番手から2番手。そして先頭に並んだ。隣を走るエチオピアの選手が思わず右に顔を向ける。赤崎は「順位など知らん」とでもいわんばかりに視線を全く動かさず、前だけを見て、先頭に立つ。カメラが白いキャップにサングラスをかけた謎の日本人を追い続ける。