先頭に立つダークホースを紹介「日本の南部で…」

　25km地点を赤崎が先頭で通過。実況がたまらず赤崎の紹介を始める。

「25キロ地点を通過、タイムは1時間16分08秒です。彼にとっては、なんと日本国外で初めてのマラソンレースになります。正直言って、これまでのレースはまずまずといったところ。今回が彼にとって4回目のマラソンで、2022年にマラソンデビューし、その時は7位に終わり、次は8位。これらのレースはどちらも日本の南部で行われました」

　突如出てきたダークホース。MGCに至る前の別府大分マラソン、福岡国際マラソンでの成績を挙げていく。行われたのは「日本の南部」。言われてみるとそうか。

「そして今、彼はオリンピックに出場しています。赤崎がレース前に言っていた重要なことの一つは、『私は坂が好きです。坂では良い走りができる』ということです。実際、最初の坂ではしっかりとした走りを見せました。彼は今、先頭を走っています」

一時は先頭に立って集団をリードする場面もあった　©Getty Images

「人生でいっちばん楽しいレースでした」

　中継映像は前を見つめて走る赤崎の表情が、パリの街角の窓に映る様子を捉える。日本人が先頭集団を引っ張る様子がカメラに映る。その瞬間、記者エリアで待機する日本人記者たちがざわめきだす。先頭集団を映すたび、実況はその集団を率いる赤崎のいる集団について語りだす。

「ナガサキ、すいません、間違えました。アカサキは先頭を走っていて、この集団はややペースが落ちているようです」

　マラソンコース最大の難所、28km途中から1kmほどある最大勾配13.5％の急な登り坂。実況が「マラソン・デストロイヤー・コース」と表現するほどの「激坂」でエチオピアのトラに抜かれ、2位集団に飲み込まれる。だが、その後もなんとか耐え、アフリカなどの海外勢と互角に張り合う。終わってみれば大きく順位を落とすことなく6位。両拳を振り上げゴールテープを切った。テレビ局の取材を終え、20人ほど集まった紙や雑誌メディアを前に開口一番、こう告げた。

「人生でいっちばん楽しいレースでした」

「人生でいっちばん楽しいレースでした」と充実感をにじませた　©Getty Images

「い」と「ち」の間に入れた一拍に達成感がにじむ。レース展開は赤崎の予想通り、前半からハイペースになることはなかった。思い描いたレースができたと胸を張る。

「自分のリズムで走ろうという意識で結果的に先頭に立っていた」

　周囲を気にせず走っていたら、目立つ位置取りとなったのだという。

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