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「大谷翔平という最高のお手本もいて…」ドジャース山本由伸が“空白の2カ月”で立ち返った原点とは? 完全復活への秘策「もう全力でいけます」
text by
田中大貴Daiki Tanaka
photograph byZUMA Press/AFLO
posted2024/08/13 11:00
離脱が発表されて2カ月、いよいよ実戦復帰が近づくドジャース山本由伸。8月17日で26歳になる
しかし、MLB挑戦1年目の初夏に悪夢は起きた。当初は復帰の予定すらも立てられないという報道もあったほどで、この2カ月間は「腱板損傷」という投手にとっては最も恐怖が襲う症状と向き合ってきた。
「ゲームを観ていると早く戻りたい、チームのプラスになりたいと考えてしまい……うーん、何て言えばいいですかね。そのあたりは、今はまあ話さないようにします。わかってください」
言葉尻からも、表情からも、不安と恐怖を感じざるを得なかった。
だが、山本はいま一度原点に立ち返った。回復ではなく、より進化するためのトレーニングに励んだのだ。
4本の矢を槍投げのように遠投し、ラストは同じ槍投げ投法で1球を投じる。これを何セットも繰り返す。美しい弧を描く槍の滞空時間は伸び、その距離が順調さを物語った。この練習での一投一投をより大事に、丁寧に、確認作業を行いながら投じる。8月に入ってからは、徐々に実戦復帰に向けての手ごたえを感じられるようになった。
「数値」を意識するようになった理由
もう一つ、進化のポイントとしてあげたいのが、山本が「数値」という言葉をよく口にするようになったことだ。
球速だけではなく、回転数、回転軸、ボールの軌道、そして変化球時のボールの変化量まで注視する。
思えば、大谷翔平がウィニングショットであるスプリットに加えて、スイーパーに辿り着いたのも、データ分析を行い、打者が空振りする軌道、ゾーンを炙り出した結果だった。
「苦悩している彼の姿を見ている。日々、何とか順応しようとしている。サポートしてあげられる部分、教えてあげられる部分は最大限、伝えていきたい」
大谷は後輩をそう気遣った。その大谷も、肘の手術を2度行い、投手としてはリハビリの最中。山本は隣のロッカーで自身のデータと映像を食い入るように確認する大谷の姿をずっと見てきた。身体のメカニズム、投球データの可視化を結果に繋げた先人から得るものは大きかった。
投球動作時には常にデータを収集するスタッフが山本の後ろに立ち、150キロを超えるストレートに加えて、スプリット、カーブ、カットの軌道を確認してきた。これはオリックス時代にはあまり見られなかった光景だ。