リハビリ期間中、注目はケガする直前に増えていたスライダーの割合だった。トレンドでもある“空振り率を上げる球種”だけに、捕手やチームの要求は増えた。しかし、山本からすれば大谷が投げるようなスイーパーと呼ばれるスライダー系のボールは投じていないという。8月6日の囲み取材の中で「スライダーは投げていません」とはっきりと断言している。

　ただ、秘策はある。変幻自在に動かすことができる宝刀スプリットを横にずらしながら落とすのだ。実際、MLBに来てからもスプリットの軌道がスライダーと表示されることが度々あった。それほどの変化量である。

　日本でもほとんど投げてこなかったスライダー系の球種を短期間で習得するのではなく、改めてストレートの質を上げ、回転数とゾーンを意識する中で、ストレートと同じ軌道からスプリットを横にずらしながら落とすことに磨きをかける。これが今後、結果を残していくための強打者への対応策であろう。

「初めて感じる長いリハビリで考えることがたくさんありました。時間ができる中でより練習に集中しました。前向きに捉え、ポジティブな時間でした。その中で2つ、3つ良いヒントがありました」

　本人が明かした“ヒント”の中に、ストレートとスプリットへの考え方、さらに新たな秘策が含まれていることは間違いない。

6日、ブルペンで投球する山本由伸　©︎JIJI PRESS

新しい環境で、最高のお手本から「学ぶ」

　オリックス時代から大事にしてきた「全力」と新たに意識するようになった「数値」。球場と自宅の往復の日々を送った山本に「改めて、山本由伸が目指す投手像は？」と問いかけた。

「日々、学べる投手」

　山本はすぐにそう答えた。新たな環境で熟考し、大谷翔平という最高のお手本から学ぶ。ひょっとしたら、ドジャースに移籍してから最も晴れやかな表情だったのではないか。そう思うほど、充実の様子が窺える。

　いよいよ、チームに合流し、ライブBPを経て実戦復帰となる。8月末にはマイナーで登板し、9月頭にはローテ復帰の予定だ。準備は整った。

　山本の頭には、すでにポストシーズンでの快投があるだろう。沢村賞投手の完全復活がドジャース世界一へのカギを握っていることは間違いない。