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男子バレー涙の円陣…小野寺の手招き、小川の頭をポンポン「史上に残る壮絶な試合だった」パリの“観客席”で見た夢のような景色とジャポンコール
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2024/08/07 11:02
逆転負けを喫したものの、序盤は強豪イタリアを圧倒したバレーボール男子日本代表。パリの会場には“ジャポンコール”が響いた
試合の前半から響いていた“ニッポンコール”を覆い隠すほどの大きな“ジャポンコール”が沸き起こり、会場を支配した。日本バレーの虜になった地元・フランスの観客が、力強く後押ししてくれている。
ホームのような雰囲気も力に変え、第5セットも劣勢から追いついた。小野寺太志の好サーブで崩してチャンスを作ると、石川がブロックアウトを奪い15-14と逆転でマッチポイントを握った。だがやはり“あと1点”が遠い。そこから3連続得点を奪われ、ゲームセットとなった。
観ていて幾度も、準決勝の舞台で躍動する日本の選手たちの姿がイメージできた。そこに立つにふさわしいチームだった。だがそれでも、まだ届かなかった。
涙の円陣を見届けた後の喪失感
いつものように行われた試合後の円陣。選手たちは涙に暮れた。石川キャプテンの言葉に、周りの選手が涙を拭い、他の誰かが言葉を発すると、今度は石川が涙する。
選手たちの話が終わるのを見届けると、フィリップ・ブラン監督が歩み寄った。コーチ時代を含め8年間日本とともに歩んだ指揮官が、万感の思いを込めて一人一人と抱き合うと、選手たちの涙腺が再び決壊した。悔しさ、無念さはいかばかりか。
史上に残る壮絶な試合だった。改めて、バレーボールは熱く、面白く、だが残酷だ。思い描いた美しいストーリーなどなかなか実現させてはくれない。
ただ、そんな残酷な敗戦後の光景にも、このチームの魅力が詰まっていた。
涙でぐしゃぐしゃになった指揮官を、選手、スタッフの手で三度胴上げるすると、スタンドから「ブランさん、ありがとう!」という声が飛んだ。
“フィリップコール”の中、ブラン監督は「このチームでやれたことが楽しかった。幸せだった」と選手たちに感謝の想いを伝えた。
集合写真の撮影を促されると、高橋健太郎は昨年3月にがんのためこの世を去った東京五輪代表セッター藤井直伸さんの遺影とともにセンターへ。
小野寺はスタンドにいた小川智大、エバデダン・ラリーに手招きしてコートに呼んだ。遠慮がちに駆けてきた小川が山本に抱きつくと、山本は小川の頭をポンポンと叩いた。想いが込み上げ、うずくまる山本に、小川が声をかけながら助け起こす。
プレーや強さももちろん魅力だが、選手同士や監督、スタッフの関係性、チームを包む空気が、見る者を魅了した。このチームをもう見られないことがたまらなく寂しく、大きな喪失感に襲われた。