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男子バレー涙の円陣…小野寺の手招き、小川の頭をポンポン「史上に残る壮絶な試合だった」パリの“観客席”で見た夢のような景色とジャポンコール
posted2024/08/07 11:02
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Asami Enomoto/JMPA
“あと1点”がこれほど遠いとは。
個の力と組織力を兼ね備えた史上最強のこのチームでも、オリンピックベスト4への壁を超えることはできないのか――。
パリ五輪準々決勝イタリア戦・第3セット24-21。五輪で52年ぶりのメダル獲得を目指す日本代表が、2022年世界選手権王者イタリアを追い詰めた。あと1点で準決勝進出が決まる。日本はそこに立つにふさわしい戦いぶりだった。
だが勝負の世界は残酷だ。それを思い知らされた、一生記憶に残るであろう試合になった。
このチームの集大成を見たい
普段バレーボールの国際大会を取材していても、フリーランスの記者は五輪の取材パスを手に入れることが難しく、今回も現地で直接選手に取材することはできない。それでもこのチームの集大成の戦いを目に焼きつけたくて、パリに向かった。
準々決勝・イタリア戦は、ほぼ完璧な出だしだった。
日本の生命線である守備がハマった。全員がボールに食らいついたが、特に会場を沸かせたのはリベロの山本智大だ。当たり前のように相手のスパイクコースにいて、ことごとく拾う。得点を決めたのはスパイカーだが、山本の得点だと言ってもいい場面がいくつもあった。
「なんなんだ?アイツは」
そう言わんばかりに、山本が拾うたび観客はどよめく。好守備からラリーになると、「このラリー、どっちが取るんだ?」と会場にワクワク感が充満し、日本がラリーを制すると興奮が爆発する。観客はどんどん日本チームに惹き込まれていった。
会場であるサウス・パリ・アリーナには、日本代表の赤い応援Tシャツを着たファンもいたが、思っていたほど日本人の観客が多い印象ではなかった。それでも自然と“ニッポンコール”が沸き起こる。
セッター関田誠大のトスも冴え渡った。相手ブロックを1枚にするケースが多く、スパイカー陣が小気味よくスパイクを叩き込んでいく。“あえてそこ”の強気なトスも光った。高橋藍がサーブレシーブで体勢を崩されても、ブロックがマークを外すことを想定し、あえて上げる。決め切った高橋も笑っていた。
そして何と言っても石川祐希だ。予選ラウンドではどこか乗り切れず、もどかしそうに見えたエースは、本来の姿を取り戻していた。相手サーブに狙われても、きっちりと返してサイドアウトを重ね、たとえサーブレシーブを崩されても、自ら得点につなげる。
試合後スタンドで会えたスタッフ陣に話を聞くことができたが、深津貴之コーチは試合前から石川の変化を感じていたという。