「ウォーミングアップ会場のモニターで見ました。信じられなかったし、いろんな感情はあったけど、僕が金メダルを獲らないで誰が獲るんだと妹の思いも背負って、最後まで戦い抜こうと覚悟を決めました」

　詩とともに、東京に続く兄妹金メダルを目標としてきた。

「すごい刺激をもらっていて、いるから負けられないという気持ちがある。僕自身も成長させてもらっている柔道家です」

詩にかけた言葉

　互いを励みとし、高め合い、尊敬する相手でもある。その敗退の衝撃はどれほどだったか。でも、だからこそ、勝利へ向けて気持ちを奮い立たせた。

　今後の目標を「まずは3連覇」とする阿部は、こうも語る。

「今回、詩が負けてしまって、また新しい目標ができました。兄としてもう一度、同じ舞台に立って一緒に金メダルを獲りたいです」

　詩が転機としてあげ、指導する方をはじめ周囲も「変わった」という出来事がある。高校1年のインターハイ初戦で敗れたことだ。

「次に何をすればいいか分からなくなってしまったというか、自分がどこを目指していいのか分からない状態が続きました」

　自分を取り戻していけた要因のひとつは兄の言葉にあった。

「『この負けをどういかすかは、詩次第やぞ』と声をかけてもらって。そうだな、とけっこう心が落ち着きました。どんなときでもお兄ちゃんらしく私の前で引っ張っていってくれる、尊敬する柔道家です」

　阿部は「兄としてもう一度」と言う。

　今、詩は失意にあっても、兄の姿を見て立ち上がる。これまでのように、ふたりはともに必ず強くなっていくだろう。