オリンピックへの道BACK NUMBER
「3年間、しんどかった」阿部一二三を圧勝劇の金に導いたのは…最強ライバルの存在、井上尚弥から得たもの、詩にかけた言葉
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byNaoya Sanuki/JMPA
posted2024/07/29 18:00
目の前で衝撃の敗北を喫した妹・詩のぶんまで「兄として」圧巻の戦いを見せた阿部一二三
「(不安は)東京で金メダルを獲ってすぐの試合からですかね。22年の世界選手権も、23年の世界選手権も。周りの方は『圧倒的だな』と思われたかもしれないですけど、全然そんなことはなくて、ライバルと競ってこの舞台を手にしたし、決して簡単な道ではなかったなと思います」
最強のライバルは国内に
連覇を果たし世界最強をあらためて示した阿部だが、東京五輪の代表になるのも容易ではない時期があった。ライバル、そう丸山城志郎の存在である。
東京五輪の代表争いでは一時、丸山がリードしていた。丸山が代表の座をつかみかけた瞬間すらあった。そこから追いついたものの優劣がつかず、両者による異例の代表決定戦を実施。24分の死闘の末勝利し、代表をつかんだ経緯がある。
そこで競争が終わったわけではなく、東京五輪後も丸山との勝負は続いた。連覇を果たした2022年、2023年、両世界選手権の決勝の相手も丸山だ。世界で最も強いライバルが国内にいて、まずはそこで強さを示し続け、より強くなったことを示す必要があった。
その中で、内面はどうあれ、「圧倒的な強さを見せる」と言葉に出して自らを鼓舞してきた。自らにかけたプレッシャーでもある言葉を体現するための練習を自らに課した。担ぎ技を磨く一方で、足技の習熟にも力を注いだ。技に加え、筋力の強化も図った。ボディービルの専門誌で表紙となり特集されるほど鍛え上げた。
井上尚弥から得たもの
5月にはボクシング世界王者の井上尚弥の防衛戦を観戦する機会があった。1ラウンド、挑戦者のネリを相手にダウンを奪われた。
「井上選手でもそういうことがあるんだと怖さを感じました」
あらゆる材料を、隙を埋めていく糧とした。