後楽園ホールでの初遭遇「あのときの高校生か…」

　福田はプロボクシングの試合を撮影すると同時に、プロではない全日本選手権やインターハイなどのボクシングの会場にも足を運ぶ。後楽園ホールで開催されている関東大学リーグ戦も守備範囲だった。もちろん中央大の試合も撮った。

「中央大にすごく運動能力の高い選手がいたんです。クリンチのときの身のこなしが非常にうまい。全国チャンピオンレベルではなかったけど、とても印象に残る選手でした。あるとき、後楽園ホールで、その彼に声をかけられたんです。『福田さん、あのときメールしたの、僕なんです。覚えていますか』と。驚きましたね。僕はメールのことは覚えていたけど、“岡澤セオン”という名前をすっかり忘れていたんです。そうか、あのときの高校生か。そういえば……とすべてがつながって、それから岡澤選手をより注目して見るようになったんです」

中央大学時代の岡澤セオン。後楽園ホールで福田直樹と初対面を果たした　©Naoki Fukuda

　岡澤も初対面のときのことをよく覚えていた。

「メールのこと、忘れていたらどうしようと思ってちょっと心配だったんですけど、覚えていてくれて感動でした。リーグ戦であの福田さんに写真を撮ってもらってるんだと思うと興奮しましたね。僕のヒーローでしたから。だってボクシングの世界で一番大きな舞台、ラスベガスで活躍してるんですよ。そんな日本人はいないじゃないですか。福田さんは選手ではないけど、“本場で一番成功した日本人”なんです。だから親しくしてもらうようになった今でも、会うとちょっと緊張しますね（笑）」

　福田と会うことができた岡澤は、もちろん弟子入りはせず、ボクサーとして成長を遂げていく。そして大学を卒業すると快進撃が始まった。ファインダーをのぞく福田の眼差しにも、鋭さが増した。

＜後編に続く＞