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スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
身長195cmの慶応ボーイ…五輪で注目“規格外ハードラー”豊田兼(21歳)を生んだ“偏差値70”桐朋陸上部の教え「高校で日本一にはなれない。でも…」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byYuki Suenaga
posted2024/08/04 19:00
400mハードルで一躍上位候補に躍り出た慶大4年の豊田兼。195cmの大器だが、その原点は超進学校だった中高時代にあった
とにかく、最初からぶっ飛ばす。飛ばすとか、そういうレベルではない。とにかく突っ込むのだ。そうして最後のホームストレートで失速し、差される。最初、自重していれば楽に勝てるのに……。
「彼はあれでいいんじゃないですかね」
2年前、世界陸上の400mHで2度の銅メダルを獲得した為末大氏に、豊田のレースっぷりについて話す機会があった。私が懸念を伝えると、侍ハードラーはこう言った。
「彼はあれでいいんじゃないですかね。ひょっとしたら、あの序盤のペースで押し切れる選手になれるかもしれませんよ。これまでの私たちの物差しでは測れない可能性があると思います」
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その予言通りになった。昨年10月、豊田は48秒47をマークして、オリンピック参加標準記録(48秒70)を突破した。そのことについて、豊田はこう話している。
「2年生の時まで前半飛ばしていたおかげで、自分の出力がどの程度か、分かるようになりました。3年生の10月に自己ベストが出た時も、想定したタイムよりも最初の100mの入りが0コンマ1秒遅かったんです。そのおかげで後半に余力を残すことが出来て、自己ベストにつながったと思います」
一流は「0秒1」の差を理解し、言語化できる。
そして今年の日本選手権で、400mHで優勝し、パリ・オリンピックへの出場権をつかんだ。
豊田の青春期の6年間、その成長を見つめた外堀先生にとっても感慨深い夏がやってくる。
「豊田は中高時代に同世代で飛びぬけてすごい記録を残したとか、そういうタイプではありませんでした。大学4年の時に、お父さんの母国であるフランスのパリでオリンピックがあるよねとは話していましたが、それも私が勝手に言っていたことで、本人がどう捉えていたかは分かりません。それを実現させてしまうんですから、すごい選手ですよね。パリよりも4年後のロサンゼルスの方がより成長が期待できますが、パリでもいい走りをして欲しいです」
豊田兼が出場する400mHは、現地時間8月5日に予選が行われる。
取材に訪れた日、豊田の後輩たちが土のグラウンドを元気よく走っていた。きっと、彼もそうだったのだろうと思いつつ。
<次回(桐朋陸上部「強さの秘密」編)へつづく>