甲子園の風BACK NUMBER
「何百万円のボーナスを捨てて、教師になるなんてお前バカか?」高校野球が好きすぎる東大エリート…“甲子園予選”で実現した「東大卒監督vs東大卒監督」
text by
沼澤典史Norifumi Numazawa
posted2024/07/22 11:00
東東京大会1回戦の開成高校vs駿台学園高校。東大卒監督vs東大卒監督の対決となった
一方、開成の先発は横投げのエースナンバー内部航。こちらもヒット1本を許したものの初回は0点に抑える立ち上がりを見せ、両校一歩も譲らぬ様相だ。
試合が動いたのは2回裏。駿台の6番富井唯人がライト越えのツーベースを放つと7番金杉愛友もセンター前にクリーンヒット。そして、先発の川口がライト前へ先制打を放ち、駿台が先制。続く1死一、三塁の場面で駿台の三角が動いた。9番勝又健吾の打席でセーフティースクイズを成功させ、追加点をたたみかけたのだ。この後の回でも駿台は得点を重ね、4回裏には駿台中出身の4番町田のスリーベースで7点目を挙げ、開成を突き放した。
開成最大のチャンスは6回表。「投打の中心」と青木が語る2番福井克徳がセンター前に運ぶと連打などで2死一、三塁を作る。スタンドの保護者や駆けつけた開成OBたちもこの試合一番の盛り上がりを見せたが、川口の前にあと1本が出なかった。
涙を流した開成ナイン「(一部は)東大野球部を目指す」
試合はそのまま7対0で進み、7回コールドで駿台が勝利。東大OB監督同士の試合は駿台に軍配が上がった。試合終了の整列中、三角から青木に向け、手を挙げるような仕草が見られたが、その真意を試合後に三角はこう語った。
「青木監督は試合前にわざわざ挨拶に来てくれました。それもあって試合後にはエールを送りました。結果はコールドで勝てましたが、お互いミスも少なく引き締まったゲームだったと思います。限られた練習環境であれだけのチームを作ったことに敬意を示したつもりです。開成のためにも勝ち上がりたいと思います」
駿台が勝ち上がるために、川口がキーマンになると三角は言う。「彼のピッチングはテンポが良く、野手からの信頼も厚く、まさにチームのエース」と語るように、川口を中心としたチームで駿台は甲子園を目指す。
一方、開成の青木は試合後、こう敗戦の弁を述べた。
「こういう不発の日も覚悟してやってきましたが、なにも起こせず終わってしまいました。選手はみな積極的に打ってくれましたが、技量が少し足りませんでした。投打の中心を担う福井には2本塁打くらい期待したんですけどね。ただ、彼のファーストの守備には非常に助けられました。例年だと野手の送球をファーストが後逸することも多かったですから。彼の捕球がなければ、倍の点数を取られていたと思います」
試合前の青木は、「うちの守備はザルですから」と冗談を飛ばしていたが、フタを開けてみれば両校とも失策は0。監督らの指導力と選手の必死のプレーがあらわれた、引き締まった試合を見せてくれた。
涙を流す開成ナインは、次は東大野球部に入って神宮球場のグラウンドに立つべく、受験勉強の追い込みに入る。
対して、三角は駿台学園の選手たちを乗せたバスをみずから運転し、次戦とその先の甲子園を見据えながら眼光鋭く球場を後にしたのだった。
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今夏の駿台学園はベスト16まで進んだものの20日、二松学舎大附に敗れた。「川口がよく投げ、打線も二松学舎相手によく打ってくれた」と三角は選手を労った。 東大野球部出身の監督たちの挑戦は、今後も続いていく。