甲子園の風BACK NUMBER
給与未払いで“教職員スト&生徒募集ストップ”の衝撃…和歌山南陵高が「全部員10人」で挑む甲子園「外からは『かわいそう』と見られますけど…」
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byFumi Sawai
posted2024/07/18 06:00
学校側の不祥事の影響から多くの転校者がでた和歌山南陵高校。野球部も3年生だけの10人で甲子園に挑む
キャッチボール後、それぞれがポジションについてノックが始まるが、連携プレーはできない。だが、バッティング練習では1人1人がバットを振れる時間は増える。今はむしろ、自主練習の時間を多めに取り、個々で足りない要素を補うことに注力している。
「そのお陰で個々の能力は上がっていると思います。あとは3ポジションができるように練習はしています」と指揮官は明かす。
チームは一昨年の夏、智弁和歌山に2-9、昨夏の県大会では市和歌山に0-3で敗れたが、いずれも準決勝まで進出している。
昨年は18人の3年生が在籍し、4試合で5本塁打をマークした強力打線が売りだった。
現チームのエースの松下光輝はスリークォーターながら140キロ台の速球を武器とする好右腕で、紀北農芸戦では自己最速の143キロをマークした。8回を4安打無失点に封じ、9回のマウンドは背番号9の山塚虎大朗に託した。
初戦は負傷者、頭部死球でハラハラの場面も
山塚も9回を三者凡退に打ち取り、完封リレーをやってのけたが、4回には捕手の中村聖が頭部に死球を受け、さらに三塁手の佐々木陸斗が膝を負傷するなど予期せぬアクシデントにも遭った。
「中村は少しクラクラする、ということだったんですけれど、それで下がってしまったらウチの選手がいなくなってしまうので、本人は“行けます”と。人数が多かったらすぐに下がってもらうんですけれど、少ないチームの中で頑張ってくれました」と指揮官は胸をなでおろした。
スタンドには6人の部員で先日インターハイ出場を決めたバスケットボール部員が自ら志望して応援に駆け付けてくれていた。たとえ限られた人数でも、温かい声援を背に受け、夏の大会を戦える。その喜びを10人が体現しているようにも見えた。