甲子園の風BACK NUMBER
給与未払いで“教職員スト&生徒募集ストップ”の衝撃…和歌山南陵高が「全部員10人」で挑む甲子園「外からは『かわいそう』と見られますけど…」
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byFumi Sawai
posted2024/07/18 06:00
学校側の不祥事の影響から多くの転校者がでた和歌山南陵高校。野球部も3年生だけの10人で甲子園に挑む
初めて来た関西。そのうえ、関東育ちの岡田にすれば関西特有の言葉のキツさや荒さに圧倒されるのではないか。そんな不安もゼロではなかった。
「和歌山は言葉遣いに独特なイントネーションがあると聞いていたんです。でも、実際は全くそうじゃなかったです。それに、市和歌山の半田(真一)監督や、田辺の田中(格)監督、耐久の井原(正善)監督もそうですが、関東から来た、何者なのかも分からない自分の話を聞いてくださったり、色々と気に掛けていただいたり、すごくありがたかったです」
もともと和歌山県の高校野球の指導者は結びつきが強く、横のつながりを大事にする風潮がある。県外から飛び込んできた新参者であろうが、快く話の輪の中に入れてくれ、練習試合を組んでくれた学校もあった。
先行き不安から転校が続出…部員は10人だけに
未知の地で、指揮官は少しずつ地歩を固められるようになった一方、10人の部員での練習には苦労は絶えなかった。何より、騒動のあおりを受けたのは何も罪のない生徒たちだった。ここで学ぶことを志して門をくぐってきた生徒たちが、先行きの不安からかどんどん他校に転校し、校内は徐々に人の姿が減っていった。
野球部も現3年生は2人の部員が転校した。4番を打つ副キャプテンの川口力叶は、徐々に変化する日常を肌で感じつつ、前だけを何とか向いてきた。
「元々僕たちの学年は12人だったので、そこまで減ったという感じはしません。確かに出来る練習は限られていますけれど、みんなで楽しくやっています」
とはいえ、10人でやれる練習は限界がある。練習は基本的に校内のグラウンドを使用するが、現在は雑草が生い茂りバッティング練習しかできない。この日は学校から少し下ったところにある日高川町が所有する野球場で練習をしていた。ネットやケージなどの道具を坂の上にある学校のグラウンドから部員10人で手分けして運び、練習環境を整えるところから練習はスタートした。