「プロなんて高校2年生くらいで諦めました。中3まではいけると思ったんですけどね。高校に入って『無理や』ってなりました。メンバー外だし、僕より上手い子なんて山ほどいましたから。上林とかが入ってきて、こういう奴がプロに行くんやな、っていう存在を見てきた。諦めましたよ。完全に諦めていました」

　進んだのは明星大学。首都大学リーグ2部とレベルはそこまで高くはなかったが、50m5秒8の俊足を生かして外野手に転向すると、打撃も開花した。2年春から5季連続でリーグのベストナインに選ばれるなど活躍を認められ、少しずつスカウトの目にも止まるようになった。

「4年生の時に大学の監督から『育成でもいいならプロに行ける可能性があるかもしれない』みたいな話をしていただきました。でもそんなの全く信じてなかったです。僕がプロなんて、ありえへんやろ、って……」

トレード発表前の6月20日に撮影　©Nanae Suzuki

プロ入りも「思い出作り」の感覚だったが…

　社会人で野球を続けることを検討していたが、2016年ドラフトで巨人から育成5位で指名を受けた。リーグ戦での盗塁数こそ少なかったものの、身体能力の高さと俊足が目にとまり“化けるかもしれない”と素材を評価されたからだ。

「指名を受けて嬉しかったです。でも、プロに入ってからやっていけるという自信は全くなかったです。3年くらい育成で面倒を見てもらえるかもしれないけど、支配下にはなれずに終わるかもしれない。今思えば“思い出作り”くらいの感じでプロに入ろう、っていうそんな感覚だったかもしれません」

「プロなんて夢にも思わなかった」という言葉は決して謙遜ではない。「いつか見ていろ」、「這い上がってやる」というギラついた野心を抱いていたわけでもなかった。ただ、光の当たらない道を歩んできても「野球を嫌いになったことは一度もない」という。

　育成5位で巨人に入団。この年のドラフトで指名を受けた「大谷翔平世代」の面々は、大卒の田中正義（ソフトバンク→日本ハム）、柳裕也（中日）、大山悠輔（阪神）ら豪華な顔ぶれ。「“思い出作り”くらいの感じで」プロの門をくぐった松原の道が少しずつ拓けていくのは、ここから先の話だ。

《後編に続く》