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ドジャースファンが絶不調・野茂英雄にブーイング、ラソーダは野茂を監督室に呼び寄せた…メジャー1年目の窮地に見た“ラソーダ監督の人心掌握術” 

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喜瀬雅則

喜瀬雅則Masanori Kise

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photograph byKoji Asakura

posted2024/07/11 11:04

ドジャースファンが絶不調・野茂英雄にブーイング、ラソーダは野茂を監督室に呼び寄せた…メジャー1年目の窮地に見た“ラソーダ監督の人心掌握術”<Number Web> photograph by Koji Asakura

新人王を獲得したメジャー1年目。じつは終盤、爪とマメ、そして不調に悩まされていた野茂。本拠地のファンからブーイングをされた試合後…

「見たままです。何とも言えません。お客さんだって勝つ試合を見に来ているんです。だから、当然でしょう」

誕生日に野茂と食べたパスタ

 ジャイアンツ戦での背信投球。降板する野茂に対しては、ロサンゼルスの地元ファンも容赦なくブーイングを浴びせた。その苦闘する“息子”を、トミー・ラソーダが監督室に招いたのは9月22日の試合前。ラソーダにとって、68回目の誕生日でもあった。

 監督室にいた来客や選手たちをすべて部屋の外へ出し、ラソーダと野茂は、通訳も入れずに、2人きりで向かい合ったのだという。ラソーダの好物であるパスタを食べながら、これまでのこと、そして今後のことをしばらく話し合った後、投手コーチのウォーレスと通訳が呼ばれ、今後のスケジュールが告げられたのだという。

 豪快な雰囲気と、歯に衣着せぬ言動が目立つラソーダだが、時にこうしたきめ細かい配慮も見せる。それが、ラソーダという百戦錬磨の指揮官の凄さだろう。

「俺の体を切ってみろ。ドジャーブルーの血が流れるだろう」

 そのドジャース愛を語る上では欠かせないラソーダの名台詞である。ドジャース監督として21年、ワールドシリーズを2度制し、リーグ優勝も4度。勝負に情はかけない。野茂を天王山での登板から外すという指揮官としてのシビアな決断を告げながら、野茂のプライドを傷つけない。そうした懐の大きさを、ラソーダは持っていた。

もう、野茂だけやなくてもええんや

 ただ、このロッキーズ戦回避が、後に野茂に“最大の恩恵”をもたらすことになろうとはラソーダならずとも、誰も予測がつかなかったことだろう。

 9月24日、パドレス戦で先発した野茂は、5回を2失点。しかし、ストレートの威力は明らかに弱く、奪三振もわずか2にとどまった。先発の責任回数こそクリアできたが、1点リードの5回終了時点で降板指令が出た。

「きょうはとにかく、いい球がいっていなかったな。今後は様子を見ていかないと」

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