近鉄を過ぎ去ったトルネードBACK NUMBER
ドジャースファンが絶不調・野茂英雄にブーイング、ラソーダは野茂を監督室に呼び寄せた…メジャー1年目の窮地に見た“ラソーダ監督の人心掌握術”
text by
喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byKoji Asakura
posted2024/07/11 11:04
新人王を獲得したメジャー1年目。じつは終盤、爪とマメ、そして不調に悩まされていた野茂。本拠地のファンからブーイングをされた試合後…
ジャイアンツとは、抜群の相性の良さを誇っていた。5月2日のメジャー初登板での5回無失点を皮切りにその後も完封勝利を2回達成するなど計23イニングで無失点に抑え込んでいた。その得意とする相手に、5回6失点というまさかの大乱調。ストレートが走ってこそ、落差の大きいフォークが生きる。それが野茂の投球における生命線なのだが、全93球のうち、フォークが47球。ストレートの球速も、70マイル台後半(120~127キロ)と、投球内容が野茂の苦闘を物語っていた。
「野茂は、中6日を2度もだよ。疲れ? それはみんな同じじゃないか」
常に温厚なはずのウォーレスの口調が、これまでとは一変して、厳しいものになっていた。地区優勝を争うライバル、ロッキーズとは、この6日後となる9月25日からの3試合が控えていた。野茂が先発したジャイアンツ戦を落としたことで、シーズン残り11試合でナ・リーグ西地区2位のドジャースは、首位のロッキーズとは1.5ゲーム差になってしまった。
野茂の空虚感がにじんだコメント
当初のシナリオは、このジャイアンツ戦を取った上で、野茂を中5日、25日に投入するというものだった。しかし、野茂の投球内容が悪すぎたことで、ウォーレスが試合後に明かしたのは、その天王山での先発登板を“はく奪”するという、非情な決断だった。
「次? 日曜日になるだろう」
中4日の24日は、同じ西地区3位のパドレス戦。ここに登板すれば、ロッキーズとの3試合で投げることは難しい。
野茂の言葉にも、ちょっとした空虚感がにじんでいた。