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ボクシングPRESSBACK NUMBER
井上尚弥は「僕よりサッカーが上手かった」幼なじみの元サッカー選手・山口聖矢が明かす怪物の少年時代「ナオはボクシングのことを話さなかった」
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byTakuya Sugiyama
posted2024/05/15 17:00
井上尚弥と同じ大橋ボクシングジムに所属する山口聖矢。Jリーガーからプロボクサーに転向した山口が井上尚弥との交流を語る
これからは一緒に遊べるね
180cm超えが当たり前のセンターバックでは174cmの体格はかなり小柄な部類だったが、山口は必死のアピールを続けた。卒業後の進路が決まったのは、大学最後のシーズンが終わり、年をまたいだ1月。声がかかったのは北信越1部リーグ(5部相当)のサウルコス福井(現・福井ユナイテッドFC)。プロ契約ではなく、午前中にサッカーの練習を終えると、午後1時から6時、7時までは介護系の仕事をこなした。だが、野心は持ち続けていた。目指すべき場所はJリーグ。そして、社会人2年目でようやくJ3リーグのSC相模原にたどり着く。当時、WBO世界スーパーフライ級王座の防衛を重ねていた井上も、地元への凱旋を喜んでいたようだ。
「覚えているのは住む場所が近くなったこともあり、『これからは一緒に遊べるね』って(笑)。実際、ロードワークはよく一緒にしましたね。ナオとは何も会話がなくても何時間でも過ごせるほど、互いに気を使わない関係なので。普段はサッカーについて何も言わないナオに、あのときは『ここからだね』という感じで言われたかな」
1分だけの途中出場
満を持して臨んだJ3リーグは、度重なるケガに苦しめられた。左足首の疲労骨折に加え、ヒザまで負傷。2シーズン在籍し、公式戦に出場したのは1試合のみである。それでも、17年6月18日、藤枝MYFC戦の終了間際にピッチに立った記憶はいまも頭に残っている。
「初出場は感慨深かったです。試合に勝てたこともあり、安永聡太郎監督に『ナイスプレー』と言ってもらえて。たいしたことはしていませんが、うれしかったですね。1分だけど、本当に楽しかった」
相模原から契約満了を告げられたのは25歳の冬。すんなりサッカーキャリアに終止符を打つ気には、なかなかなれなかった。社会人リーグの地方チームからオファーも届き、ある程度のサラリーも保証されていた。下のカテゴリーでチャレンジもできるが、先の長い人生もある――。思いを巡らせているときだった。普段は仕事のことを話さない幼なじみの前で、悩みを口にしていた。すると、井上からは率直な意見が返ってきた。
<つづく>