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大谷翔平はなぜ米男性ファッション誌の表紙を飾ったのか? 背景にあったアメリカ社会の「MLBがつまらなくなった」批判、ファン高齢化
text by
内野宗治Muneharu Uchino
photograph byNanae Suzuki
posted2024/05/14 17:02
アメリカの老舗男性向けファッション雑誌『GQ』スポーツ版の表紙を飾った大谷翔平。その背景を読み解くと「MLBの危機」があった
野球への悲観論
「『野球を救う』のは誰か。この議論はそもそも、野球には救世主が必要だという、長年の人気低迷が生んだ絶望的な感覚の延長線上にある。野球を再び繁栄させるためには何か根本的な転換が欠かせない。そういった感覚だ」
「ソーサとマグワイアの夏で盛り上がり、ステロイド・スキャンダルで揺れた野球が――NBAの隆興、NFLの復活、プレミアリーグやF1中継の流入によって選択肢が増えたスポーツの世界において――20年に及ぶ衰退に入ったことを振り返るのは簡単だ。アメリカの世紀を間違いなく彩っていた背景も、陽の光を浴びすぎて永久に色あせてしまったようだと理解することもできる」
高齢化するMLBファン
近年の大谷フィーバー、そして2023年春にワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の熱狂を経験した僕ら日本人からすると、ライリーの表現はいささか悲観的すぎるようにも思える。だが、かつて「ナショナル・パスタイム(国民的娯楽)」と呼ばれていたベースボールが斜陽化しているという感覚は、ライリーに限らず多くのアメリカ人が抱いているものだろう。
アメリカのスポーツビジネス専門誌『スポーツビジネスジャーナル』が2017年に実施した調査によると、アメリカにおけるMLBファンの平均年齢は57歳で、アメリカ4大スポーツのうち最も高いという。ちなみにNBA(バスケットボール)、NHL(アイスホッケー)、NFL(アメリカンフットボール)ファンの平均年齢はそれぞれ42歳、49歳、50歳となっている。
2017年時点におけるアメリカ人の平均年齢は38歳なので、そもそも4大スポーツが総じて「年寄りの娯楽」になりつつある現状がうかがえるが、なかでも突出してファンの年齢層が高い野球は、多くの若者からそっぽを向かれているということだ。1試合が3時間を超えるようなスポーツを今どき見ていられない、という感覚はアメリカだけでなく日本の若者も持っているだろう。