猛牛のささやきBACK NUMBER
オリックスの開幕投手・宮城大弥に聞いた「山下舜平大はライバルですか?」その答えに見えた“愛されキャラ”だけじゃない「新エースの肖像」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byHideki Sugiyama
posted2024/03/29 11:07
オリックスの新エースとして開幕投手をつとめる宮城
「ちょっと自分にムカつくというか…」
身長171cmとプロ選手の中では小柄な宮城はもともと、長身で体格のいい選手にコンプレックスを抱いていた。1年ほど前、こう話していたことがある。
「身長とか体重とか、持っているものって人間それぞれ違いますけど、なんでそこでそんなに差が出るのか、ちょっと自分にムカつくというか。やっぱり(長身のほうが)有利な部分は多いと思います。もちろん身長が高ければ、体を扱うのが難しい部分もありますけど、本当に、低いよりは高くいたかった。やっぱりリリースが前でできたり、だいぶ差は出ると思う。それは仕方ないなと思いますけど、『190cmあったらどうなってるんだろう?』とは思いますね。
投げ方も全然違う形になっているかもしれない。もっと投げ下ろせる感が強かったり、スピン量がきいたり。自分が苦にしていたものは簡単にできたのかなと思ったりします。フォークもやっぱり身長が高くて上から投げたほうが、角度がついて、少し落ちただけでも変化が大きく見えるだろうし。そういうところは、僕は身長が低いし、スリークオーターだし、苦戦しているというか……ま、自分の実力不足です」
「他の人ができないことを…」
U15、U18日本代表を経験し、昨年はWBCにも選出。はたから見れば順風満帆で、普段は和やかにチームメイトとたわむれる“愛されキャラ”の根っこに、こんな葛藤があったとは。どうにもならないものに、それでも抱いてしまう憧れや執着。宮城の人間味が垣間見えた。
だが体格差を嘆くだけでなく、それを補うための工夫と努力をしてきたから、今の宮城がいる。
「僕も中2で167cmぐらいだった時は、『わ、伸び代あるわ』と思っていたんですけど、中3から全然伸びなくなって、170cmぐらいで止まってしまった。周りの子はどんどん伸びていって……。人より早く止まった分、体の使い方とかで(補った)。ま、手足が短いから使いやすい、動きやすいというのもありましたけど。どうしてもちっちゃく思われがちですし、不利な部分もありますが、それは仕方ないと割り切って、その分、他の人ができないことをしっかりやろうとは思います」
今は、自分なりの極め方が見えてきているのだろう。
舜平大から宮城へ…
山下にも逆に、宮城がどんなふうに見えているか聞いてみた。
「宮城さんはピッチャーとしてのレベルが高すぎますよね。勝ち方というか、自分にないものばっかり持っている。コントロールとか、スライダーとか、変化球の使い方とか。波もないですし。すごいっす」
なにも孫世代まで待たなくても、宮城のすごさは誰もがわかっている。そしてきっと、今年はもっともっと見せつける。
今年の開幕投手は宮城に託された。1週間前のオープン戦登板後、中嶋聡監督から「言わなあかんの?」と告げられ、握手を交わした。
投げたいとアピールしてきた念願の開幕投手。
「すごく嬉しかった。反面、(やりたいと)言ってきたからには、というプレッシャーもあります。楽しみと、不安と、緊張と、たくさんありますけど、一生懸命やろうと思います」
4連覇を目指すオリックスの2024シーズンは、宮城大弥の1球で幕を開ける。