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「普通なら2カ月かけて覚える変化球を、2週間で…」“主役不在”のセンバツでベテラン記者が見た《徳島のマエケン》阿南光高・吉岡暖の進化
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2024/03/25 11:01
センバツ1回戦を突破した徳島の阿南光・吉岡暖投手。学校統合を経た現在の校名では甲子園初勝利となった
大谷翔平投手の「ショートアーム」をイメージしているように見える。高橋徳監督のご指導なのか、自分で気づいてのことか、あわただしい試合中の「修正」はためらいがちになるものだが、良くなければ直す……前向きな姿勢だ。
6回まで1安打無失点。
アベレージ130キロ台後半でも、ねじ込んでくるような速球の威力は豊川高打線をここまで圧倒した。加えて、吉岡投手の大きなアドバンテージは、複数の変化球を当たり前のようにピッチングに盛り込んでくることだ。
「普通の投手が2カ月かかって覚える変化球を、吉岡は2週間で手の内に入れてしまう」と高橋監督が証言するように、100キロ前後のカーブにカットボール、シュートの軌道で沈むツーシームのようなボールもあって、特にこの日は、勝負所でフォークが効いていた。
今大会注目のスラッガー、モイセエフ・ニキータ中堅手に、カーブを3球続けて速球を匂わせながら、フォークをショートバウンドさせて空振り三振にきってとったあたり、この大舞台でちょっと楽しみ過ぎじゃないか。
7回以降の3イニングで8安打4失点は、ニュースタイルの「二段モーション」に、体がちょっと疲れてきたか。ネット裏から見ていると、胸のマークが見えるのがはっきり早くなっていて、豊川高打線がタイミングを合わせやすくなっていた。
まだ春先、体の強さもまだ不十分で、実戦で投げるパワーも目覚めたばかりだ。中盤6回までが大きな収穫で、7回以降が今度の宿題。本人にとっても、気持ちいいぐらいわかりやすい「結果」になったのではないだろうか。
快腕から剛腕へ…注目投手の進化
昨秋の「快腕」がどこまで腕を上げているだろうか? このセンバツの大きな楽しみだった。
フタを開けたら、昨秋の快腕は、別人のような変化を遂げて、「剛腕」への道をたどり始めていた。
剛腕といっても、ただひたすらパワー、パワーで押しまくるだけの「力持ち」じゃない。緩急併せ持って、その日の調子なりに投げ進められる高い実戦力を持った「勝てる剛腕」。
このセンバツを契機に、新しいスタイルで、さらなる高みを目指し始めた阿南光高・吉岡暖投手のこの先に、幸あれ。