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「普通なら2カ月かけて覚える変化球を、2週間で…」“主役不在”のセンバツでベテラン記者が見た《徳島のマエケン》阿南光高・吉岡暖の進化
posted2024/03/25 11:01
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
JIJI PRESS
たとえば最近10年を振り返ってみて、今年ほど、前評判の高い「目玉選手」のいないセンバツもなかったのではないだろうか。
一昨年の佐々木麟太郎選手(花巻東)のような話題性と実力を兼ね備えた存在はいないが、ならば選手たちのレベルが低いのか……と言われれば、むしろ「全く逆です」とお伝えしたい。
ネームバリューが低いだけで、5年先、6年先、近未来のプロ野球界で、「期待の新鋭」としてプレーできる素質を秘めた逸材は何人もいる。
阿南光高・吉岡暖投手(3年・182cm85cm・右投右打)を初めて見たのは、昨年秋の徳島県大会の3位決定戦だ。
すでに、夏の大会までに150キロ台をマークして話題になっていた生光学園高・川勝空人投手(3年・180cm86kg・右投右打)との対戦の日だった。
その日のお目当ては川勝投手の方で、吉岡投手については詳しい人から「いい投手ですよ」と聞いていた程度だったから、初回のマウンドを見て正直、ウワッと思った。
長い手足を活かして腕を振り下ろす…マエケンだ!
ピッチャーになるために生まれてきたような均整抜群の長身。伸びやかな四肢をしならせて、リリースで全身の瞬発力がパチッと弾けるように腕を振り下ろす。
最初の1球で「前田健太だ!」と思った。
今はメジャーリーガーとして奮投中の熱投右腕が、PL学園のエースとして、まさにセンバツ甲子園のマウンドで弾けていた頃と同じ若々しいエネルギーを感じてしまったものだ。
しかも前の日に完投して、その翌日の朝なのを思い出して、もう一度驚いた。
疲れはないのか。ないわけはない。なのにモーションのスタートで、左ヒザがサッと胸まで届くイキの良さ。
完投の疲れや痛みを、表に出すまいとする心の強さなのか、仮に疲れや痛みがあっても、いったんユニフォームを着てマウンドへ上がればそうした邪魔なものを消去してしまう旺盛なアドレナリンの持ち主なのか。
どちらにしてもプレーヤーにとっては、とても大きなアドバンテージ。頼もしいヤツが出てきたものだ。