残るのは、巨人と日本ハムだけ。

　巨人は菅野智之（東海大卒）でほぼ確定だったから、あるとすればやっぱり日本ハムだけか。菅野投手は前年のドラフトで巨人熱望を通して、日本ハムの1位指名を拒否していた。

　この年はオールスターに勝ち越したセ・リーグに優先権があったため、リーグ最下位のDeNAから指名が始まり、日本ハムの1位指名がいちばん最後だった。

　その日本ハムが予告通り「花巻東高・大谷翔平」を指名した瞬間の、納得や驚きや喜びや祝福の混ざり合ったようなどよめきは、以降11回のどのドラフトでもまだ聞いたことがない。

強行指名を受けた大谷だったが、日ハム側の真摯な交渉もあり結果的に入団を決めることになる　©JIJI PRESS

「これで今年も大谷獲り損なったら、フロント全員、切腹ですよ」

　直後に、ある日本ハム関係者の口から発せられたひと言は、本人、ジョークのつもりで言ったのだろうが、とてもそんなふうには聞こえなかった。

この年のドラフト「せっぱ詰まっていた」日ハム

「そうなんですよ、あの年、（日本）ハムはせっぱ詰まってましたからね」

　当時、現職スカウトだった方から、このような話を聞いたことがある。

「あの年のキーパーソンは、実は大谷翔平じゃない。菅野だと見てましたね、私たちは」

　その前年、巨人入団を熱望していた東海大・菅野智之投手（現・巨人）を、日本ハムは果敢にも1位指名。競合した巨人との抽選にも勝って交渉権を獲得したが、度重なる交渉で説得するも拒否されていた。

日ハムは大谷ドラフトの前年、原辰徳氏の甥である菅野を1位指名し入団拒否されていた　©Naoya Sanuki

「ウチの調査だと、大谷を指名するとしたら、ハムと巨人だけってことでした。しかしその巨人は、前の年のドラフトでジャイアンツ命を貫いた菅野に行かなければ、世間（ファン）が黙っちゃいない。そうなると残るはハムだけ。でも、ウチもそうでしたけど、よそ（の球団）もハムが口説き落とせるとは思ってませんでしたよ」

　学校も家族も、メジャー挑戦に対しては、万全のバックアップ体制を敷いていたという。中には、大谷選手の「顔相」を理由に、当時、こんな話をしていたスカウトの方までいた。

「あの子は頑固だよ。顔見たらわかる。童顔の丸顔に見えるけど、よく見ると、アゴの骨がしっかり張ってる。まあ、頑固だね。言い出したら、きかない顔だよ」

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