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“批判された名門加入”から数カ月で「エンドウ写真撮って!」子どもの憧れに…遠藤航31歳が“失意のアジア杯”後もリバプールに不可欠な理由
posted2024/02/24 17:02
text by
小野晋太郎Shintaro Ono
photograph by
Getty Images
ひつじが1匹、ひつじが2匹……。
ここはイギリスの高級セレブが集うベッドタウン。だが、窓の外に見える庭を越えたその先には、100匹を超える羊がメェメェとたむろする。
その昔、イギリスでは羊毛の輸出があまりに儲かるので、農民を追い出して羊の放牧を行い始めたらしい。「羊が人間を食う」とまで表現された、囲い込み政策、マニファクチュア……。世界史で聞いたことがあるようなフレーズがうっすらと蘇える。少し目に見えることを調べたら、イチイチ歴史と繋がってしまう。伝統とはこういうことを言うらしい。
プレミアリーグ伝統の超過密日程――。
ウインターブレイクはなし。12月、リバプールは9試合を消化する。中3日、あるいは2日での試合が続いていく。だからこそ、遠藤航は「ここが勝負になる」と確信していた。
「スケジュールを見たら試合が多すぎて、基本的には練習とかもないんですよ。代表選手もケガ人も多いし、チーム練習はリカバリーばかりで……。シンプルに難しいっすよ、毎回いきなり新しいメンバーとやるのは。だけど、文句は言わない。ここまでターンオーバーでは絶対先発で使ってもらっているし、そもそも、「使える」と計算されていることが大事なんで。この連戦でチャンスはくる。そこで信頼を積んで、大きな試合で使われた時に、結果を残せたら立場は変わるから。トップ・オブ・トップは、その一員になるってことから始まると思っているんで」
リバプールでの「試用期間」は終わった
12月の初戦はヨーロッパリーグ(以下、EL)のLASK戦だった。ここで勝てば、グループステージ1位での決勝トーナメント進出が決まる。モハメド・サラーやルイス・ディアスら主力も名を連ねるなか、指揮官ユルゲン・クロップは遠藤をアンカーに起用した。ELでは5試合連続スタメン。「試用期間」は終わりを告げようとしていた。
聖地と呼ばれる本拠地アンフィールドは、スタジアム全体がクロップのサッカーを体現していた。選手たちがボールを高い位置で奪えば、ゴールと同じ様に熱と歓声が伝播する。結果、この日、一番の歓声が間違いなく遠藤に注がれていた。
遠藤のプレーエリアは移籍当初から明らかに高くなり、インターセプトとボール奪取から2得点が生まれた。終わってみれば、4-0の勝利にフル出場で貢献。夏の移籍から間もない頃は、遠藤がピッチのどこにいるかすぐに分かった。だが、この日は赤いユニフォームに「埋もれ」ていた。それこそが、攻撃的なサッカーをするビッグクラブに馴染み始めていた証拠だった。
現地紙の採点はゴールを奪ったディアスを除く、全員と同じ7点がつけられた。試合終了後、名だたるチームメイトを抑え、敵の選手たちにユニフォームをねだられた。遠藤は相手の名前すら知らなかった。