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“批判された名門加入”から数カ月で「エンドウ写真撮って!」子どもの憧れに…遠藤航31歳が“失意のアジア杯”後もリバプールに不可欠な理由
text by
小野晋太郎Shintaro Ono
photograph byGetty Images
posted2024/02/24 17:02
アジアカップ後、リバプールの3連勝に貢献した遠藤航(31歳)。現地時間2月25日、加入後初のタイトルを懸けた戦いに臨む
「エンドー!テイクアピクチャー!」
車窓の外では小さな子供が叫んでいる。
試合終わり、遠藤のマイカーで抜け出したスタジアムの導線には地元ファンがとり囲んでいた。
「1人と(写真を)撮っちゃうと車が進まなくなるから」と申し訳なさそうに軽い会釈を済ませて夜道を突き進む。
試合後の遠藤は脳にもスイッチが入っているからか、いつもの早口がさらに増していた。イングランドのフットボールはスピードとパワーだけではない。判断の連続に、頭は疲れないのだろうか?
「(頭は)俺は疲れないっすよ。それは当たり前なんで。でもやっぱりシンプルにフィジカルが疲れますね。今日は相手がプレミアじゃないのはあるけど、自分の色は出せたかな。わりと今日、『エンドウ』が出ていたでしょ? でもね、多分、これからもっともっと、『エンドウ』が出てくると思いますよ」
チームが苦しいときこそ、「エンドウ」が現れてボールを奪う。サムライブルーのユニフォームでは見慣れた光景が、アンフィールドのピッチに表現されようとしていた。何より、サラーやファンダイク、そして生え抜きトレント・アレクサンダー・アーノルドら、ボールを持った中心選手たちが遠藤を見るようになってきている。特にサイドバックのアーノルドは遠藤と一緒にプレーすれば、明らかに躍動した。
「うん、アーノルドはやりやすいっすね。ほとんどプライベートはしゃべったことないけど、俺を見てくれているし、彼もやりやすいと思ってくれていると思う。そういうのって言葉じゃないですよね、俺が出ているときの彼のポジションとか見たら、感覚でわかりますから」
「とりあえずエンドウが守ってくれるわ」
LASK戦後、再び遠藤宅に帰ってきた。時計は23時を少し回るころ。備え付けのワインセラーから、市民では見たことのないワインが登場した。「普段は飲まないですけど」と言いながら軽食を口にする。そのまま、試合の日はどうせ寝られないから、と乾杯に付き合ってもらう。
高級ワインと時差、何よりアンフィールドの熱で興奮が冷めやらない。イギリスでフットボールをすることが如何に凄いことか熱弁するのだが、遠藤はいつもの様に受け流す。時折、席を立ち、スナック菓子のおつまみを持ってきては、僕の前にちょこんと置いていく。まずは自分より、近くにいる「誰か」の主語で物事を考えている。
「まぁ、生で見たら、中盤の運動量とかプレスは普通じゃない事を伝えたくなるのは分かりますよ。リバプールはボールを縦に運ぶために誰かが剝がさないといけない、奪わないといけないっていう共通認識が、目に見えてわかりますよね。(ボール奪取を高い所で)成功すれば一気に世界が変わるし、守備でも攻撃の状態が変わらないというか……もう、相手からしたらずっとウザいぐらい攻撃している(笑)。
だから、切り替えでボールを奪いきれないときは、メチャクチャきついです。でも俺は他の選手がしんどい時間帯にこそ、それを続ける。『とりあえずエンドウが全部守ってくれるわ』って思ってもらう。その行動の繰り替えしだけが、ここでの信頼になると思っているので」