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《ライバル対談》「えっ、ここにいるの?」田澤廉と太田智樹が日本選手権レース中に驚いた個性派ランナーとは?「太田さんとパリ五輪に行きたい」
text by
涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui
photograph byTomosuke Imai
posted2024/02/24 11:00
1万mでパリ五輪代表を争い、トヨタ自動車のチームメイトでもある田澤廉(左)と太田智樹
「やっぱりいるよね、というメンツ。でも小林(歩)さんは『えっ、小林さん?』って(笑)。それ以外は予想しているメンバーだったので」(田澤)
「ビジョンを見て『まだ小林いるじゃん!』って。小林には負けられないなって(笑)。塩尻さんは強いし、相澤もどうせ走ってくるんである程度は想定はしていたんですけど、小林がいるのは想定外だったので。スタート前に小林と話をしたら、行けるところまで行きます、って感じだったし、まさかここまでくるとは」(太田)
駒大出身で田澤の2つ上の先輩である小林歩(NTT西日本)は、ユーチューバーとしても活躍する個性派ランナー。だが、この日本選手権で5位に入って大幅に自己ベストを更新すると、ニューイヤー駅伝では田澤らエース級が集った3区で区間賞も獲得しており、その実力は本物だ。
ちなみに、檄を飛ばす大八木総監督がビジョンに映し出された場面では、太田は「ちょうどビジョンを見ていて、大八木さんの顔じゃなくて状況を教えてくれ、って」と内心で苦笑していたという。
田澤が発した「無理無理無理」
レース当日、国立競技場は最高の雰囲気に包まれた。日本記録ペースで進むスピード、箱根駅伝でも活躍してきた有力ランナーが終盤まで複数残る展開、トラックの間近で応援するファンの熱気。当事者たちは、その雰囲気を楽しめていたのだろうか。
2人は即座に否定した。
「いや、気持ちいいっていうか、そんなの考える余裕ないくらい必死で……」(太田)
「無理無理無理」(田澤)
観るものにとって最高のトラックレースも、当事者たちにとっては己の限界と向き合う過酷な戦いの場でしかないのだ。ちなみにこのレースを日本新で制した塩尻の強さについて、競り合った感覚が残る2人はこう評した。
「27分1桁というのはさすがに想定してなかったです。すごい」(田澤)
「何がすごいって残り600mでスパートかけられること。僕が塩尻さんだったら、ラスト1周とかラスト200mまでペースメーカーの後ろで待つと思うんですよ。それをあのタイミングでいけるメンタルの強さですよね」(太田)
塩尻を筆頭に役者が揃い、歴代最高レベルにある日本の長距離トラック種目から目が離せない。
対談ではほかにも……
●なぜ箱根駅伝への「憧れ」がなかったのか
●ニューイヤー駅伝で優勝を確信した瞬間
●大八木塾の知られざる内幕
●田澤の私服へのこだわり、太田のこだわりのなさ
●2人が息抜きにしているスイーツやお酒(田澤は故郷の銘酒を挙げてくれた)
など、多岐にわたるテーマについて2人が本音で、時にジョークも交えながら語っている。
ライバルであり、練習パートナーでもある2人は、揃って3月16日にアメリカの記録会「The TEN」で1万mのタイムを狙いにいくという。塩尻、伊藤達彦らも出場するというレースで、田澤の「パリ五輪に太田さんと行きたい」という思いが一歩現実に近づくのか。彼らの走りに注目だ。