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<野口みずき×前田穂南スペシャル対談>「次の目標は“アレのアレ”」女子マラソン日本記録更新をゴールではなく通過点へ
posted2024/02/27 11:00
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph by
Nanae Suzuki/ Sidekicker 森脇育典
野口 そういえば、私が現役を引退する前に、社会人1年目の前田さんと一緒に写真を撮ったよなと思って、探してみたらあったんです! 2016年1月頃のアルバカーキーでの合宿。覚えてる?
前田 覚えてます! オリンピック選手だ、テレビの人だって、わぁーってなりました(笑)。野口さんと何を話したかまでは覚えていないんですけど、その時の晩ご飯はちゃんと覚えています。
野口 晩ご飯! 私は覚えていないなあ……。
前田 確かグラタンでした。なぜか印象に残っているんですよね(笑)。
1回目のMGC優勝から日本記録を意識
野口 私は、手足が長い選手が黙々と走っているなっていう印象はあったんだけど、その前田さんが私の日本記録を更新(2時間18分59秒)してくれるとは思いもしませんでした、その当時は。でも、なんとなくオーラがあるのを感じていたんですよね。
前田さんが日本記録を意識するようになったのはいつぐらいから?
前田 やっぱり1回目のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ、2019年)で優勝してからですね。日本記録にチャレンジしたいって思いました。
野口 まず2020年2月の青梅マラソンで、私がもっていた30kmの日本記録を更新したわけですが……。あの時は“やられたか……”という気持ちになりました(笑)。
前田 青梅の前にケガをして練習が途切れたことがあったので、あの時はそんなに走れる感じではなかったんです。監督も記録は諦めていたと思います。でも、当日は体調が良かったので、走れてしまいました。
野口 当時は寂しい思いが強かったですが、今は全然違って、前田さんが1月の大阪国際女子マラソンで日本記録を更新してくれた時は“やったー!“ってなりました。記録を破ってくれて、良かったって思っています。
高橋尚子さんや私たちが現役だった頃は日本の女子マラソンの黄金期と言われていた時代で、距離をしっかり走って、質も追っていました。前田さんもまた、そんな泥臭い練習をこなすタイプの選手です。マラソンはこういう練習をやってナンボだっていうのを、改めて走りで表現してくれたんじゃないかな。しかも、私が解説をしている目の前で更新してくれて、とても良い縁があると思っています。
大阪国際女子マラソンでは、前半はきつそうな表情をしていた場面が結構あって、ちょっとエンジンがかかっていないのかなって思いながら見ていました。だから、ハーフを過ぎたところでいきなり飛び出した時には本当にびっくりしました。
前田 前半はペースメーカーに付いていき、楽に体を動かしていこうって決めていました。15kmを過ぎて、無理にペースを上げようとしなくても体が勝手に動くようであれば、前に行こうと考えていました。ハーフ地点を過ぎて、タイマー車を見た時に自分が狙っていたタイムよりも遅かったんです。これでは間に合わないって思ったし、体は動いていたので、自分のペースで行こうと思いました。
それに、15kmで給水が取れなかったんですが、20kmで取ることができて元気になったんです。そこでスイッチが入りました。