NumberPREMIER ExBACK NUMBER
《ライバル対談》「えっ、ここにいるの?」田澤廉と太田智樹が日本選手権レース中に驚いた個性派ランナーとは?「太田さんとパリ五輪に行きたい」
posted2024/02/24 11:00
text by
涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui
photograph by
Tomosuke Imai
「結局、この4人ねって思いながら走っていました。(予想するとして)3連単とかでも、結構倍率低いんじゃないですかね(笑)」
昨年12月の日本選手権1万mは、大熱戦かつ、歴史に残るレースになった。
残り800mでスパートをかけて優勝した塩尻和也(富士通)が27分9秒80の日本新記録を樹立し、初めて27分1桁台にタイムを乗せた。最後の直線でデッドヒートを見せた2位の太田、3位の相澤晃(旭化成)も従来の日本記録を上回るタイムで走り、それに続いた田澤も自己ベストを更新。この4人がタイムで日本歴代1〜4位を占めることになった。
冒頭の言葉は、当日の映像を見ながら太田が発したものだ。8000m過ぎて、先頭集団はペースメーカー役を担ったキプロノを除くと、太田、田澤、塩尻、相澤の4人に絞られていた。キプロノのすぐ後ろに位置をとった太田によると、この面子は「予想通り」だったそうだ。
ただ、田澤にとっては太田だけが予想外だったという。というのも、レース前に「調子が悪い」と練習パートナーでもある太田から直接聞かされていたため。レースが始まってすぐに「太田さんに騙された」と思ったという。
「太田さんが最初から前にいたので、絶対に調子いいじゃんって思って。走っていたら、背中でわかるんですよね。練習でもそうだったんですけど、強い時の太田さんの背中はオーラがあるんですよ」
太田はニヤリと笑って続ける。
「あの位置どりは、たまたま田澤の前が空いていたからですよ(笑)。でも、スタート前、ペースメーカーが最後まで引っ張るかわからないって言われていたんです。持ちタイム的にも最後まで行けるかわからないけど、最低でも8000mまで行くから、と(説明があった)。だから徐々に他のランナーが落ちていってペースメーカーのすぐ後についた時は、外れた時のことばかり考えて『最悪だ』ってずっと思っていました。頼むから最後まで走ってくれ、と」
レース中に田澤と太田が驚かされたランナーとは?
今回のトークライブでは、当事者2人にレース映像を見ながら振り返ってもらったのだが、心肺機能や脚力などを限界まで振り絞っているランナーの"思考の軌跡”がわかる貴重な機会になった。
例えば、オーロラビジョンの活用の仕方。選手がたびたび視線を上に向けるのはその映像を確認するため。先頭付近を走っていると全体の状況が俯瞰できないため、タイムだけでなく順位を狙うレースでは貴重な情報源になるという。
「ビジョンで塩尻さんと相澤の表情を見て、なんでそんなに余裕そうなのって。選手の《キツい度合い》が見えるように可視化してほしいですよね(笑)。僕は7000mのあたりで限界って思いながら走っていたんですけど、塩尻さんは5割もいってないんじゃないかな。これ結構メンタルにくるんです。自分こんなにキツいのに、まだこんなに余裕そうなんだって」(太田)
そしてこの7000m付近では、2人ともビジョンを通じてあるランナーの存在が気になっていたという。