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箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
「いまはあまり競技はしたくないというか」…《箱根駅伝で優勝候補》駒澤大の“27分台ランナー”唐澤拓海が「消えた天才」の道を選ぶワケ
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byYuki Suenaga
posted2024/02/17 11:06
3月で駒大を卒業する唐澤拓海。1万m27分台の記録を持ちながら、最後の箱根路を走ることは叶わず。卒業後の進路についても聞いた
これだけ走る才能に恵まれていながら、実業団へは進まないという。もったいないという声は多いだろうし、まだ伸びしろだってかなりあるように思える。本当に未練はないのだろうか。
「ないですね。もしかしたら、ないようにしているだけかもしれないですけど」
1万mで27分台のランナーが、大学卒業と同時にスパイクを脱ぐ。過去にもおそらく例がないのではないだろうか。興味のある業界、就職先として考えていることを聞くと、わりと真面目な顔をしてこう答える。
「お笑い系をやりたいんですけどね。僕、ビジネスルールとかが嫌いで、非常識なので。それができるのってやっぱり芸人さんじゃないですか。スーツ着て働く姿が想像できないんですよ」
「30(歳)までは尖っていたいです」
繊細であるがゆえに無頼を装っているようにも見えるが、本当のところはどうなのだろう。
続けて、こんな言葉を漏らす。
「とか言いながら、何カ月かしたらコロッと変わっているかもしれないですけどね(笑)。自分のことながら、大変な性格だなと思います。ただ、30(歳)までは尖っていたいです。今の気持ちは持っておきたいなって思います」
「どこかの知らない道を、のんきに走っていたいです」
まだ22歳、先のことなど誰にもわからない。
向こう見ずさと純粋さは紙一重でもある。これだけの走る才能を備え、ユニークな考え方の持ち主が、陸上界の未来にたずさわらないのは惜しい。心変わりがあるなら早いうちにと、願ってしまう。
「今はあまり競技はしたくないというか。ただ、走ることは好きなので、川沿いとかどこかの知らない道を、のんきに走っていたいです」
走ることを嫌いになったわけではない。中学から走り続け、大学まで没頭したのだ。新たな可能性を見つけるための充電期間も必要だろう。
もしこのまま陸上界から姿を消せば、いつか「消えた天才」として再び注目される日が来るのかもしれない。そっとしておきたいような、それでも彼の未来を見てみたいような……。
仮に数年後、日の丸を付けて走っていても、それほど驚きはしない。