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出産→マラソン復帰でMGC出場、前田彩里32歳が明かす“母になってからの変化”「私の足、こんなに重たかったっけ」「子どものことばかり考えて…」
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byNanae Suzuki
posted2024/02/18 17:02
一度出産を経験したのち、マラソンに復帰し2023年のMGCにも出場した前田彩里。出産を経て異例の復帰までを振り返る
「不完全燃焼でした。8月、9月とコンスタントに練習を積み重ねることができてMGCを迎えたんですけど、レースの時の気温が雨で寒すぎて。でも、条件はみんな同じですし、何を言ってもしょうがないですけど、寒さを含めて対策が甘かったですね。出産をしてからは、パリ五輪を大きな節目にしようと考えていたんです。でも、あっという間に東京から3年が過ぎて、結果を出せなかった。レース後、『まだまだやれるでしょ』とコーチに言われました。悔しいですし、自己ベストを更新するまでは続けたい。やっぱり、それを越えて納得してやめたいと思っています」
娘のためにも自己ベストを出すまではやめられない
勝負レースに勝つことは嬉しいが、自己ベストを更新することはそれ以上に嬉しいことでもある。自己ベストは自身の限界を押し上げ、成長した証であり、ランナーはそのために走っているとも言える。前田にとっては、2015年の名古屋で出したタイム(2時間22分48秒)を越えることが、今の自分が最高であるという証明になる。
そのための大きなモチベーションが今の前田にはある。
「走るのは、もちろん自分のためですが、娘のためにっていうのもあります。最近は、私が走っているのを分かってきて、『走りにいくの』とか、『もっと強くなるんだよ』って言ってくるんです(笑)。一番、娘が自分に力をくれているので、娘のためにも自己ベストを出すまではやめられないです」
自己ベストの走りを娘に見せて9年前の自分を越える。それがどのレースになろうが、一番強い姿を見せるまで前田が足を止めることはないだろう。
<「学生時代」編とあわせて読む>
前田彩里(まえだ・さいり)
1991年11月7日、熊本県生まれ。本田技研熊本で監督を務めた父と市民ランナーの母、そして姉の影響を受け、中学から陸上を始める。熊本信愛女学院から佛教大学を経て、2014年ダイハツに入社。2015年、マラソン日本歴代8位(当時)のタイム「2時間22分48秒」を記録。2018年に結婚し、2020年12月に長女を出産。2023年にはMGCに出場を果たした