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「結婚するの? しないの?」“5年生存率50%”以下の難病から復帰したプロスノーボーダーが恋人から突きつけられた条件「離婚届か、履歴書か…」 

text by

雨宮圭吾

雨宮圭吾Keigo Amemiya

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photograph byHideki Sugiyama

posted2024/01/26 11:02

「結婚するの? しないの?」“5年生存率50%”以下の難病から復帰したプロスノーボーダーが恋人から突きつけられた条件「離婚届か、履歴書か…」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

難病を克服し、社会貢献活動に邁進する荒井daze善正氏

 ドナー探しを始めてから約6カ月、ようやく提供者が見つかった。フルマッチではなかったが、50代女性からの提供を受けて移植手術を受けられることになったのだ。

 ようやくゴールかと思いきや、そこはまだ入り口に過ぎなかった。移植前の準備から、いくつもの苦しい作業が待っていた。

 DAZEは足の神経が麻痺する慢性炎症性脱髄性多発神経炎という難病も併発していたため、スノーボーダーとしての復帰も見据えた上で神経内科で並行して治療を行った。そのせいで足先の自由が利かなくなった。虫歯があると移植時に感染症のリスクがあるため、「復帰した時に力が入らなくなるから嫌だな」と思いつつ、奥歯も4本抜いた。

 まずは抗がん剤や放射線を使って血を作る造血幹細胞を破壊する作業だ。ここでも吐き気や下痢、臓器へのダメージなど厳しい副作用が出る。血液を作る機能や感染に対する抵抗力を一切なくした状態まで下げているため、DAZEも静脈のカテーテルから細菌が入って高熱が出たという。

 そしてドナーから提供された細胞を注入し、その細胞が新しい血液を作り出すのを待つことになる。血が作れない間は献血者からの輸血でやりくりする。

「最初は新しい血液の免疫が僕の体を異物だと思って攻撃するんです。それでばーんと42℃くらいの熱が出る。それが1カ月ぐらい続きました。そこまで熱が出ると、人って目が冴えて全然眠れないんです。いっそのこと気絶したいぐらいしんどかった。もうモチベーションは生き残って社会を変えてやるってことしかなかったですね」

 壮絶な苦しみを乗り越えた手術から5カ月後、DAZEはスノーボードを履いて雪の上に立っていた。

「先生、ちょっとスノーボード行っていいですか?」

「本当にちょっとだよ。絶対に頭打たないでね。血小板の値が低いから頭打ったら死んじゃうよ」

 DAZEは先生の許可をもらうと北海道行きの飛行機に乗った。

 DAZEが復帰するぞ!とゲレンデには大勢の仲間たちが集まってくれた。みんな動画も撮っていたので、DAZEはついついテンションが上がってジャンプしてしまった。しかもスピン付きで……。先生が見ていたらきっとこっぴどく叱られただろう。

何のために滑るのか

 久しぶりに感じた「滑れる幸せ」。それは何にも代えがたいものだった。

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荒井daze善正

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