マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「どなり声なし、丸刈りなし、下級生が上級生をニックネームで」令和で激変の学生野球…それでも元プロ選手が「もっと変わるべき」だと思うこと
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNaoya Sanuki
posted2024/01/28 17:00
昨夏の甲子園で優勝した慶応高校。非坊主や自主性の尊重など令和の学生野球の変革を感じさせる一幕だったが…
そんな想いもあり、“良い問いかけの仕方”として、Aさんは指導する大学の選手が集まった時に、みんなに伝えたそうだ。ところが、返ってきたのは予想外の反応だったという。
「キョトンとされちゃいました(笑)」
今の学生たちは、自分たちの関心のあること以外、なかなか反応してくれないという。野球の現場にも、「おひとりさま」の精神が漂い始めているようだ。
「僕たちの学生時代は、ほかのヤツが怒られていれば、それを自分のことのようにも考えて、半分、自分も怒られているような気分で緊張して聞いていました。でも、今って違うんですね。人が怒られている……だから自分は関係ない」
対岸の火事。つまり、ひと事だという感覚が「今」ではないのかという。
「なんというか、閉じているんです、学生たちが。元気なんですよ、それなりに。素直に、一生懸命頑張っているんですよ。でも、どこか踏み込んで来ない」
徐々にヒートアップしてくる話しぶりに、指導者の「本音」がうかがわれる。
「僕たちの学生時代も、指導者に何かを問いかけるなんて、ほとんどなかった。それは、そういう雰囲気じゃなかったからです。監督は怖いし、上級生も怖い。何事も上下関係の上意下達で決まっていましたから、指示されたことをやるのに精一杯。指示されたこと以外やっちゃいけないみたいなムードでね」
雰囲気が一変した「令和の時代」の学生野球
ただ、およそ30年経って、「現場」の雰囲気も一変している。
どなり声なし、坊主頭なし、冗談あり、笑い声あり、満面の笑みあり。昨夏の慶応高校の甲子園制覇は記憶に新しいところだろう。
「大学だって誰が1年生で、誰が4年だかぜんぜんわからない。昔みたいにグラウンドで怯えているヤツなんて、誰もいない。上級生がキャッチボールやっている真ん中を1年が横切っているのを、上級生が投げるのをやめて待ってくれるんですから」