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「神にはなれなかった」けど…“山の妖精”城西大・山本唯翔「花の2区」志願も5区を選んだナゼ…心に響いた櫛部監督の説得《箱根駅伝MVP》 

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酒井俊作

酒井俊作Shunsaku Sakai

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photograph byNanae Suzuki

posted2024/01/10 06:02

「神にはなれなかった」けど…“山の妖精”城西大・山本唯翔「花の2区」志願も5区を選んだナゼ…心に響いた櫛部監督の説得《箱根駅伝MVP》<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

雨中の5区で昨年に続いて区間新記録をマークし、大会MVPに輝いた“山の妖精”こと山本唯翔 

「けいれんも何もなく、一番キツいところでしっかり押していけたのは1年間、しっかり準備してきたことが繋がっています。同じ5区には(創価大の)吉田響選手や(青山学院大の)若林宏樹選手ら、強い選手はいっぱいいましたが、上りだったら負けない自信がありました」

クロスカントリースキーで鍛えられた足腰

 山の5区は山本唯にとってずっと憧れだった。

 新潟・十日町市に育ち、クロスカントリースキーで足腰を鍛えた。幼少期の頃から箱根駅伝をテレビで見て、魅せられたのは山上りに挑むランナーたちだった。

 1年生だった21年に5区で6位。2度目の出走だった昨年は区間新も出した。だが、最終学年を迎え、もう5区には執着していなかった。

 もっと上に目線を置く。今回は5区ではなく、各校のエースが集う2区を志願したのである。櫛部も現役時、早稲田大で活躍したトップランナーだった。山本唯に芽生えた、アスリートとしての向上心は痛いほど分かっていた。だが、駅伝はチームで競う団体戦だ。監督として、山本唯を説得した。

「最後、4年生で『山』で期待もかかっている。チームとして箱根を成功させよう。それには2区じゃなくて5区だ。去年の区間記録保持者が出ないのはないよね」

 監督の思いを受け止め、山本唯も頷いた。

「それなら、5区でいきます!」

 昨秋の全日本大学駅伝後は箱根の山上りのことだけを考えた。出場を望んでいたトラックの記録会も一切走らず、ただ一人、大学近くの山道を走り込んだ。櫛部も「記録会は平地ですし、山とはまったく違います。我慢しての今回でした」と明かした。

 箱根の山を上りきると、一度下って、国道1号線の最高点まで再び急勾配を攻める。そして一気に下る。やがて、山本唯の眼下には芦ノ湖が見えてきた。箱根神社の大鳥居をくぐると、ゴールは目の前だ。

「最後の1kmは、今井さんの記録しか見ていなかったんですよね」

 初代「山の神」で、順天堂大の今井正人(現トヨタ自動車九州)が05年にマークした1時間9分12秒は、いまのコースとほぼ同じ距離で、事実上の区間記録とみられている。山本唯は2秒及ばなかった。それでも、2年連続で区間新となる1時間9分14秒だった。

【次ページ】 「神になりたいと言った時期もあったけど…」

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