「両角先生も多分、難しかったと思います。言葉は悪いですが、1つの才能を優先してチームを諦めるか、チームのために才能を使うのか、どっちを取るかというところで。多分、両角先生は前者を取ってくれた。それは個人的にはすごくありがたかったです。でも、その反面、チームには大変な思いをさせてしまったなと」

　もちろん練習環境が別ならば、言葉で、背中で示そうと考えたこともあった。

　だが、あまりに抜きんでた才能はそれすら許さない現実もあった。

「『頑張れよ』と僕から言われても、響かないのが分かるんですよ。力が近いライバル関係の選手に言われたら、もうちょっと頑張れるかもしれない。でも、僕から言ってもあんまり説得力がないというか……」

　佐藤本人はそう言葉を濁したが、それはチームでの孤高の裏返しでもあった。

　3000mで中学記録（当時）を持ち、高校でも圧倒的な成績を出し続ける佐藤を、チームメイトは誰もが特別視した。そして、自分と比べようとすら思わなくなった。

中学時代には3000ｍで中学記録（当時）を更新するなど、すでに日本トップクラスで活躍していた　©︎JIJI PRESS

「孤高のエース」が生まれてしまった理由は…？

　監督だった両角も、当時をこう振り返る。

「悠基の孤独感はやっぱり心配でしたよ。特に3年生の時は『友達いるのかな』とか『同じ視点で話せる仲間はいるのかな』とずっと憂慮していました。前年までは上野（裕一郎、前立教大監督）がいて、いい意味で彼がチームとの橋渡し役にもなれていた。

　でも、その上野が卒業して、実力的にも圧倒的に抜けてしまった。人間的に隙があった上野と違って、悠基は高校生にしては完成されすぎていた。その隙の無さが、あの年の彼を孤高にしてしまったのかもしれません」

　取材中、本人がふっとこぼした言葉にも、ほんの小さな孤独感が滲んでいた。

「これは大学もですけど、チームメイトから『（自分に）勝ってやろう』とか『何とかして追いついてやろう』みたいな想いは、あんまり感じることはなかったかな」

東海大進学後は「空前絶後」といわれた2年時の1区をはじめ、3年連続で区間新記録を打ち立てた　©︎AFLO

　高校陸上界歴代でも指折りの有り余る才能の心の内は、自由な反面、大きな孤独をはらんでいた。ただ、だからこそ佐藤自身はここまでトップランナーとして戦い続けることができているのかもしれない。

　高校卒業後は東海大に進学し、箱根駅伝では3年連続で区間新記録。社会人でも実業団の日清食品でニューイヤー駅伝、大邱世界陸上、ロンドン五輪での日本代表など活躍を続けた。中学時代から日本トップクラスだった選手で、ここまで安定して全年代で活躍した選手は他に類を見ない。

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