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城福浩監督の「見向きもされなかった」は謙遜でも自虐でもなく…東京ヴェルディ16年ぶりJ1昇格、大観衆の魂が震えた“涙の国立決戦”のウラ側
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byMasashi Hara
posted2023/12/05 11:04
5万3264人の大観衆が詰めかけた“オリジナル10”同士による国立決戦。激闘の末、名門・東京ヴェルディが2008年以来となるJ1昇格を決めた
「春先は見向きもされなかったチーム」の躍進
試合後の取材エリアで、谷口栄斗が記者に囲まれている。小学生年代から高校生年代までをアカデミーで過ごし、国士舘大学を経て2022年から在籍するCBである。
「僕たちはタイミング良く、今日この昇格の場に立ち会えただけで、J2で戦ってきたこの15年に色々な歴史があって、これまで在籍した選手、監督、スタッフ、色々な人の苦労があったから、僕たちはこのタイミングで昇格に立ち会えた。そういう人たちへの敬意を、示さなければいけないと思います。そういう人たちの苦労があったからこそ、こういう大きな喜びが味わえたのだと思います」
森田がPKを与えてしまった場面では、「サッカーの神様はホントに残酷なことをすると思った」と言う。1学年下の後輩の胸中を察して、自身も胸を撫でおろすのだった。
「晃樹がキャプテンでJ1昇格を果たせて、ホントに良かったです。自分が言うのもなんですけど、ホントに逞しくなったと思います」
その森田は、穏やかな表情で記者の前に立った。染野のPKが決まって1対1の引き分けに持ち込み、J1昇格を決めた試合終了直後のインタビューでは、感情の鎖が決壊して大粒の涙をこぼした。歓喜の瞬間から1時間以上が経ち、若きキャプテンはいつもの落ち着きを取り戻している。
「試合に出ている選手だけでなく、ベンチの選手も、メンバーに入っていない選手も、全員が一丸となって戦う気持ちをもってやれた。それが結果につながったのかな、と思います」
シーズン開幕前の時点で、東京VのJ1昇格を予想する声はほとんど聞こえてこなかった。22年シーズンは4シーズンぶりのひと桁となる9位でフィニッシュしたが、保有戦力の比較ではプレーオフ進出も難しいと言われていた。「春先は見向きもされなかったチーム」との城福監督の見立ては、謙遜でも自虐でもない。
それでも、薄紙を一枚ずつ積み重ねるように、それも四隅をきれいに揃えるような丁寧さで、レベルアップをはかっていった。
連敗は1度しかない。3試合連続で勝利から遠ざかったのも2度に限られる。