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城福浩監督の「見向きもされなかった」は謙遜でも自虐でもなく…東京ヴェルディ16年ぶりJ1昇格、大観衆の魂が震えた“涙の国立決戦”のウラ側
posted2023/12/05 11:04
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph by
Masashi Hara
壮絶でありながら美しく、意外性に富んだ忘れ得ぬドラマが、師走の冷たい風を熱くした。
J1昇格プレーオフを制したのは、東京ヴェルディだった。Jリーグ黎明期を彩ったオリジナル10の名門クラブが、2008年以来16年ぶりにJ1へ辿り着いたのだ。それだけで心を動かされる、魂を震わされるが、試合展開がとびきりにドラマティックだった。
キャプテン森田晃樹に宣告された“残酷すぎるハンド”
リーグ戦を4位で終えた清水エスパルスは、勝たなければJ1に昇格できない。4-2-3-1のトップ下を務める乾貴士が「試合の入りは悪くなかった」と話したとおり、序盤から東京Vの両サイドを突いてくる。前半のシュート数はどちらも3本だったが、東京Vは自分たちがやりたいことを十分に表現できなかった。
後半も決定機を作り出せないなかで、60分過ぎにアクシデントがふりかかる。ペナルティエリア内左で相手選手と競り合ったキャプテンの森田晃樹が、ハンドを取られてしまうのだ。
近年の東京Vは、選手の流出が著しい。昨オフもチーム得点王のFW佐藤凌我がアビスパ福岡へ、パリ五輪世代のCB馬場晴也がコンサドーレ札幌に移籍した。ヴィッセル神戸がJ1優勝を決めた試合で先制点を決めたMF井出遥也も、2020年から22年まで東京Vのユニフォームを着た。
アカデミー出身で高校3年時にトップチームデビューを飾り、プロ1年目から中盤を担ってきた森田も、他クラブの興味を惹く存在だ。しかし、昨オフは熟考の末に契約を更新し、「チームをJ1に上げた男になりたい」との決意を語った。
主将を任された今シーズンは、全42試合のうち40試合に出場した。ジェフユナイテッド千葉とのプレーオフ準決勝では、1得点1アシストをマークしてチームの勝利に貢献している。
クラブの遺伝子を色濃く受け継ぐ男が、自分たちを追い詰める原因を作ってしまう──あまりにも残酷である。チアゴ・サンタナにPKを決められ、東京Vはビハインドを背負うのだ。
両チームの立場は入れ替わったが、ピッチ上の構図も変わっていく。後半からシステムを3-4-2-1へ変えた清水が、先制後は守備重視になっていくのである。清水の秋葉忠宏監督は「2点差以上で勝つと選手には話していたし、2点目を取ってゲームを決めるのがプランだった」と振り返るものの、3バックが5バックになり、チーム全体が後退し、ボールホルダーにプレッシャーがかからなくなっていくのである。