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《原田哲也の悪夢再び》Moto3の佐々木歩夢、悪質な妨害でタイトル獲得ならずも、世界のレースファンは絶賛
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2023/11/22 11:01
残り3周の6コーナーでイン側のフェルナンデスに悪質な妨害を受ける佐々木(手前)。これにより大幅にポジションを落とした
「ちゃんとマシアと優勝争いがしたかったけど、ちょっと汚い形でやられた。今日のレースは悔しさも湧いてこない、ひどいレースだった。特にエイドリアンがインを差してきたときは決定的だった。無理矢理入ってきて、アクセルを戻す。コーナーリングしたくても、行き場がないままアウトにラインを外され、これが決定的な差となった。マシアにタイトルを獲られたことは悔しい。でも、レースに負けたという悔しさは微塵もない。エイドリアンに邪魔された後、ファステストラップも出せたしね」
フェルナンデスは鈴木竜生の後釜として、後半戦からMoto3に出場している。いま思えば、こういうときのために日本人の竜生を外したのだろう。実際、タイGP以降、フェルナンデスは執拗に歩夢の邪魔をするようになった。コースに出るタイミングも合わせ、走り出せば邪魔をする。速さでは歩夢には敵わないが、まとわりつくことで精神的にイライラさせて失敗を誘導する作戦だった。レオパード・レーシングがチーム一体となって歩夢を標的とし、タイトル獲得に挑んでいることは明らかだったが、カタールGPはあまりにもひどかった。
1998年の250ccクラス、最終戦アルゼンチンGPで先行する原田哲也に追突して転倒させ、逆転でタイトルを手にしたロリス・カピロッシを彷彿させる、実に嫌なレースだった。
挑戦者へのリスペクト
最終戦決着に持ち込めなかった悔しさを押し殺して、歩夢は将来を見据える。
「マシアがチャンピオンになったというのは考えられないし、祝福もできない。タイトルを獲れなかったのは仕方ないが、自分としてはやりきった感がある。今年は自分でミスしたこともたくさんあったし、ミスがなければしっかりチャンピオン争いが出来たと思う。でも、シーズン終盤戦はしっかり戦ってMoto3を楽しめるレースができた。来週の最終戦バレンシアGPはチャンピオンシップを考えないで走れるし、優勝だけを目指して行く。バレンシアをしっかり戦って、次のチャレンジとなるMoto2に行きたい」
今季、歩夢は19戦を終えてPP5回を含む10回のフロントローを獲得。表彰台獲得は10回(2位7回、3位3回)。優勝こそなかったが、「予選で速さを見せられたと思う」と振り返った。
チャンピオン獲得のチャンスを逃すも、正々堂々と戦った歩夢を世界中のレースファンがリスペクトしている。その一方、チャンピオンを獲ったマシアと汚いチームプレーに徹したレオパードには、「史上最低のチャンピオン、そしてチーム」というレッテルが貼られたことは間違いない。