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カタールの悪夢を振り払い、佐々木歩夢がMoto3最終戦で正々堂々の今季初勝利! 加藤大治郎の日章旗とウイニングランで来季はMoto2へ
posted2023/11/29 11:03
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
チャンピオン争いをする相手陣営の悪質な妨害によって、カタールGPでMoto3クラスのタイトル獲得の夢が潰えた佐々木歩夢(ハスクバーナ・インタクトGP)が、その1週間後、最終戦となった第20戦バレンシアGPで、正々堂々と戦って優勝。歩夢自身はもちろんのこと、多くのレースファンが喜びを爆発させた。
バレンシアサーキットのスタンドを埋めた10万人を超える大観衆も歩夢の勝利を祝福した。一方、チャンピオンとなったハウメ・マシア(レオパード・レーシング)にとってバレンシアはホームGPだが、凱旋レースを13位で終えた彼を祝福しているのは仲間だけといってもいいほど。大歓声と拍手は、両親から受け取った日章旗をなびかせてウイニングランに臨む歩夢へと向けられた。
20周で行われた決勝レース。予選2番手から好スタートを切った歩夢は、オープニングラップにトップに立つも、2周目以降はチームメートのコリン・ベイヤーが首位に立ち、それを追撃する形となった。中盤まではMoto3クラスならではの大集団だったが、終盤になって優勝争いは4人に絞られた。そして、ラスト5周でトップに立った歩夢が、ライバルたちの追撃を振り切って真っ先にチェッカーを受けた。2位との差は、わずか0.082秒。5位までのタイム差は、0.384秒という相変わらずの激戦だった。
涙、涙の親子3人
チェッカーを受けた歩夢が右腕を突き出し、ハンドルから両手を離して喜びを爆発させた。勝利をビッグスクリーンで確認した父・慎也さんと母・未来さんは、用意してあった日章旗を持って2コーナーに入る。「優勝したら2コーナーで旗をわたすよ」という約束をレース前に歩夢と交わしていたからだ。
だが2人はコースマーシャルに制止された。しかし、「(2位のダビド・アロンソのために)スペインの旗を持っているのは入って行けるのに、なんでだめなんだ。ここで諦めるわけにはいかない」と両親は強引にコースに入って、歩夢の到着を待った。両親にとっては初めて見る、グランプリでの息子の優勝だった。
慎也さんがその喜びを語る。
「チェッカーを受けてから何してるんだろうって思うほど、なかなか歩夢が来なかったんですよ。やっと来たと思ったら、自分たちがいるせいか、もう歩夢がめちゃめちゃ泣くんだよね。ああ、スペインに応援に来て良かったなあ。カタールのリベンジを果たせて良かったなあと思いました」