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“合奏団のチェロ少女”が100mの学生王者に…《次世代スプリンター》蔵重みうの成長曲線「甲南大は“陸上だけの人生”と考えてないのが素敵だなって」
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph byShigeki Yamamoto
posted2023/11/19 17:00
1年生ながら9月の日本インカレ女子100mで優勝し、学生No.1スプリンターに輝いた蔵重みう。その異色の背景は…?
「高校時代は生活の中で陸上の割合がかなりを占めていたのですが、甲南大の先輩方は陸上も一生懸命頑張りながら、オシャレにも全力を注いでいて。なんというか……色んなことを楽しむ中に陸上があって、『陸上一本だけの人生』と考えていないのが素敵だなって感じます。
女子選手は特に、大学に入ってから記録が伸び悩んでしまうことが多いと思うんです。でも、陸上以外のことを楽しむうちに気持ちが上がり、また陸上も上手くいくという相乗効果もあるのかなって思います」
そう微笑む蔵重の手元にはネイルがキラッと光る。「可愛いですね」と話題を振ると、笑顔で両手を見せてくれた。
「みんなに『こういうパーツが可愛いよ』とか『このデザインがおすすめだよ』というのを教えてもらいながら真似してます。やっぱり手元がきれいだと、スターティングブロックを合わせるときにテンションが上がるんです」
グラウンドではチームメイトと談笑しながらトレーニングに励み、等身大の大学生の姿を見せる蔵重だが、一歩外に出れば、期待の新星として注目を浴びる。女子短距離が停滞気味であるがゆえに、新しい風を吹かせるのではとの周囲の期待も膨らむ。蔵重自身もその期待を肌で感じており、同時に自身の中で咀嚼しているという。
「注目されることは嬉しいですし、自分のモチベーションを高めることにも上手く使えます。でも、競技成績が落ち込んでしまったときには、過去の栄光のようなものを振り返ってしまうし、周りから『頑張ってね』と期待されると、『ああ、やっぱり頑張らなきゃいけないのか』というプレッシャーを感じることもあります。なので、『私はまだ大学生なんだ』っていうスタンスで、少し自分を守りながら、楽しみつつ、上を目指していければいいなと思っているんです」
「無理して五輪にだけ合わせていくよりは…」
今季はアジア選手権4×100mリレーで第1走を務め、チームの銀メダル獲得に貢献。来年にはパリ五輪も控えるが、どの程度の距離感に捉えているのだろうか。
「海外の大会を経験したことでもう一度ここに戻ってきたいという気持ちは強くなりましたし、そのためには日本の競技会でトップの成績を収めなきゃいけない、この標準記録を切らなきゃいけないというのがグッとクリアになりました。
ただ五輪はまだ遠い世界の話かなと思っています。仮にパリ五輪に出場できたとしても『ああ出られたからもうこれでいいや』と思ってしまうかもしれません。そこで終わってしまうのは嫌なので、無理してそこにだけ合わせていくというよりは、陸上人生のひとつのピークがちょうど合って出られるのなら、と考えています」
蔵重は「大学の間に個人種目で国際大会の代表に選ばれるのが目標」と言う。大学陸上という青春を楽しみながら、健やかに一歩ずつ、世界への階段を登っていくのを楽しみに待ちたい。