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「自分に失望した」衝撃発言から始まった“石川祐希の9日間” 今だから話せるエジプト戦の後悔と会心の1本「藍は想定内。MVPは健太郎さんに」 

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田中夕子

田中夕子Yuko Tanaka

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photograph byYuki Suenaga

posted2023/10/26 11:02

「自分に失望した」衝撃発言から始まった“石川祐希の9日間” 今だから話せるエジプト戦の後悔と会心の1本「藍は想定内。MVPは健太郎さんに」<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

激闘のパリ五輪予選を振り返った石川祐希。先日のセリエA開幕戦ではいきなりチーム最多得点を叩き出す活躍を見せている

「チャンスボールが返って来た時点で、(前衛にいた)宮浦(健人)がダイレクトで打つかなと思ったんです。でも打たなかったから僕のセットアップも遅れ、宮浦もネットに近いところでパスをしたので助走に入り直す余裕はない。その時点で宮浦に上げる選択肢は消え、(前衛の)藍か、西田のパイプかと思った時、西田の吼える声が聞こえたんです。(西田にとっては)自分のサーブで崩した1本でもあるので、これは西田に上げるしかないと思ったら僕のトスが低かった。もう少しトスが高かったら打てたはずなので、確かに『やらかした』とは思いましたけど、でもその1本で試合が決まったわけではないし、(攻めの判断だったので)あそこで西田に上げたことに後悔していないです。むしろ、その後に決めなきゃいけない球を決められなかったことのほうが僕の中ではアウト。あそこは反省しかないです」

 大会前のコンディション不良で自身のイメージとプレーがなかなかリンクしないもどかしさを抱えた前半戦。さぞ余裕がなかったのではないかと思いきや、自らのミスが出た後も至って冷静に、周囲を観察し、分析していたことに驚かされた。

「西田に上げた1本に関しては、藍と(フィリップ・)ブランは怒っていましたね。ブランには言われるだろうと思ったし、実際に翌日も怒られた。(試合中に)藍の顔を見てもピリピリしているのがわかったし、自分だって彼や他の選手に怒りたくなる時はあるので、彼が怒っているところは全く気にならなかったし、むしろそうあるべきだと思っていました」

 エジプト戦に敗れ、悔しくなかったわけはない。それでも余裕すら持ちながら、石川が前を向いていた理由は明確だった。

 まだ試合は続く――ましてや五輪出場権の可能性が潰えたわけではない。

「もう負けられない、ヤバい、という感情はなかったです。むしろ自分に目を向けても、ここから上がっていく自信しかありませんでした」

悪い流れを断ち切った会心のブロック

 その言葉通り、試合を重ねるごとに石川は魅せた。ピークは五輪出場を決めた6戦目のスロベニア戦だった。

 チュニジア、トルコ、セルビアにストレート勝ちで2位へ浮上し、スロベニアにストレート勝ちすれば、最終日を待たずに五輪出場権を獲得する。大会前から「大一番」と位置付けられた一戦で会心のプレーが飛び出した。スロベニアに1対6と5点を先行された第1セット序盤のブロックだ。

 スパイクやアウトオブポジションで先行され、立ち上がりは最悪。スロベニアのサーブが続く中、今度はミドルブロッカー小野寺太志がレシーブしたボールがダイレクトで相手コートに返ってしまった。相手のサーブがよかったとはいえ、安定感が武器でもある小野寺のミスはチームに与える動揺も大きい。そんな場面で、スロベニア代表ロク・モジッチが満を持してライトから放った攻撃を止めたのが石川だった。

【次ページ】 「“ナイス、俺”と思うぐらい(笑)」

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