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「自分に失望した」衝撃発言から始まった“石川祐希の9日間” 今だから話せるエジプト戦の後悔と会心の1本「藍は想定内。MVPは健太郎さんに」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYuki Suenaga
posted2023/10/26 11:02
激闘のパリ五輪予選を振り返った石川祐希。先日のセリエA開幕戦ではいきなりチーム最多得点を叩き出す活躍を見せている
「単純に、もっとできると思っていたんです。(負傷した腰の影響で)練習できていなかったですけど、それなりにはできると思っていたら全然できなかった。ケガをする前の感覚だと、ここに打てば決まると思うボールも全然決まらないし、ブロックされる。『あれ?』というのが多すぎて、自分に失望していました」
前兆はアジア選手権前のトルコ遠征から感じていた。腰に違和感が生じたために2日ほど練習を休んだ。痛みが治まったことで予定通りアジア選手権に出場したものの、短いオフを挟んで始まった沖縄合宿でボール練習とウェイトトレーニングを行ったらまた腰に痛みが生じた。ぎっくり腰に近い状態で、ボール練習どころか背筋を伸ばすこともできない。また休めば治まるだろう、と様子をみても痛みが消える気配はなかった。
満足な練習がほぼできないまま沖縄合宿を終えた石川は、東京での合宿でも全体練習に参加できなかった。パリ五輪予選直前に行われたカナダとの親善試合も、ぶっつけ本番に近い状態だった。
「それまでを100とするなら6割程度。痛みもありました。でもそこはだんだん改善してきたので問題はなかったんです。むしろトレーニングや練習ができていないので、自分が沈み込んでいるつもりでも全然沈み込めず、ジャンプができていなかった。そのギャップ、ズレがパフォーマンスに影響していました」
反省が残るエジプト戦の第3セット
初戦のプレッシャーや五輪予選という大会自体の緊張感。要因は1つではなかった。フィンランド戦に続き、エジプト戦では第3セットからの逆転を許しフルセット負けを喫した。
この試合、石川にとっても反省が残るプレーがあったと追想する。リベロの山本智大や高橋藍の好守でつないだラリーを決められなかったシーンだ。
「第3セットの23対24の場面。ラリーが続いて3本も自分に上がって来たのに決められなかったことです。あそこで決めていれば24対24、そこから一気に終わっていたかもしれないですから」
複数の選手の取材を進める中で、実はその一つ前のシーンに言及するのではないかと考えていた。
22対23、西田有志のサーブで崩したチャンスボールを石川がそのままバックセンターから入って来た西田にトスを上げた場面。そのスパイクがネットにかかり、相手に先に24点目を献上した。
しかも前夜の悪夢が過ぎる第3セット。タラレバを承知で言えば、もっと別の選択があったのではないか。他の選手たちもそう指摘した1本だったが、しかし、石川の解釈は周囲とは少し違っていた。