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今季の出場わずか4分…“稀代のパサー”青山敏弘(37歳)がインサイドキックからやり直している理由とは?「今の自分は試合に出るレベルにない」
posted2023/10/25 11:04
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
Atsushi Iio
サンフレッチェ広島のスターティングラインナップに必ずあった男の名が、突如として消えた。
プロ20年目を迎えたクラブのバンディエラ、青山敏弘が昨季のリーグ戦で先発したのは4試合。今季に至ってはリーグ戦で出場した4試合とも後半残りわずかでの投入だったから、記録上は各試合1分の出場でしかない。今季はベンチに入ることのほうが珍しい。
プロ3年目の夏からピッチに立ち続け、サンフレッチェ広島を背負ってきた男は今、何を思うのか――。
それが知りたくて、広島県安芸高田市にある練習場を訪ねた。
そこで目にしたのは、チームのトレーニング終了後、黙々とインサイドでボールを蹴り続ける青山の姿だった。
昨年限りで引退し、スクールコーチとして古巣に戻った駒野友一を相手に、ひたすらパス交換を繰り返す。ほかの選手たちはすでにファンサービスも終え、ロッカールームに消えていったにもかかわらず。
青山と駒野が引き上げてきたとき、練習終了から1時間近くが経とうとしていた。
「最高のパサー」がやり直す基礎練習
――駒野さんとパス&コントロールを30分近くやっていましたね。すごく丁寧に、フォームを一つひとつ確認するように、右足でボールを黙々と押し出して。
青山 もう本当に、そういうところから納得いってなかったんで。コマさん(駒野)は今、週1ぐらいでトップチームの練習に来てくれるので、時間があれば教えてください、っていう感じで。
――インサイドキックから。
青山 そう、インサイドキックから。インサイドが決まれば、自分の持ち味も出てきますから。まだまだ全然できてないんですけど、そういう細かいところ、根本的なところから変えていきたいなって。今の自分は試合に出るようなレベルにないんで。でも、こういう作業に付き合ってくださる方々がいるのは、ありがたいことですよね。当たり前のことじゃないと思っています。
――プロの世界で20年やってきて、佐藤寿人さんをして「最高のパサー」と言わしめた選手が今、インサイドキックからやり直していることが衝撃的というか……凄いなと。
青山 いやいや。やっぱりもう1回、自分のパスでファン・サポーターに喜んでもらいたいし、自分も喜びたいし、チームを勝たせたいですから。得点につながるようなプレーをしたいと思っているけど、今はまだそのレベルにないのは自分が一番よく分かっている。そのレベルに辿り着くまでのプロセスをしっかり作って。もちろん、すぐにでも結果を出したいけど、そんな簡単じゃない。自分の今の立ち位置もね、これじゃあダメ……ダメっていう言い方がいいのか分からないけど、自分の中ではそれぐらい周りと差があると思っているんで。