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広島一筋20年「移籍を考えたことは一度もない」柏木、槙野、西川…盟友たちを見送ってきた37歳・青山敏弘の本音〈10番モリシへの後悔も〉
posted2023/10/25 11:05
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
Naoki Morita/AFLO SPORT
2012年、13年にJ1リーグを連覇し、15年にチャンピオンシップを制したものの、サンフレッチェ広島は不思議とカップ戦のタイトルに縁がなかった。
1995年から14年まで天皇杯とナビスコカップ(現ルヴァンカップ)の決勝に7度も勝ち上がりながら、そのすべてで涙を呑んできた。
そんなシルバーコレクターに22年、千載一遇のチャンスが巡ってきた。10月16日の天皇杯決勝と22日のルヴァンカップ決勝、1週間で2度もファイナルを迎えたのである。
天皇杯決勝はヴァンフォーレ甲府に敗れ、またしても優勝杯を逃したが、セレッソ大阪とのルヴァンカップ決勝は後半アディショナルタイムに2ゴールを奪い、ドラマティックな逆転勝利で悲願を成就した。
この試合でベンチに入った青山敏弘に出番が訪れることはなかったが、ハーフタイムには紫のサポーターを鼓舞し、セレモニーの開始前にはゴール裏に歩み寄っていき、サポーターと喜びを分かち合った。
優勝の瞬間をピッチで迎えたかっただろうな――。
そんな風に想像しながらミックスゾーンで待っていると、最後の最後に姿を現した青山は、カップを大事そうに抱え、清々しい表情でこう言ったのである。
「みんなの力を思いっきり借りて、優勝させてもらおうと思っていました」
「あのチャンスは運命だったのかな」
――天皇杯決勝はベンチ外でしたが、1週間後のルヴァンカップ決勝ではベンチ入りを果たしました。ミヒャエル・スキッベ監督からはどんな言葉をかけられたんですか?
青山 言葉、あったかなあ……。まあ、ケガ人がふたり出たんでね。ひとりじゃ入れなかったと思うから、何かの巡り合わせなのか、あのタイミングで自分にチャンスが来たっていうのは、運命だったのかなって思いますね。ただ、強化部の方から「あの週のアオは監督も評価していた」って言われたんで、練習で何かしらアピールできたんでしょうね。
――この舞台に立ちたいんだろうなって思いながら試合を観ていたんだけど、ミックスゾーンでの堂々とした姿、清々しい表情、芯のある言葉にハッとさせられたというか。
青山 腹をくくっていたんでしょうね。自分がどう振舞ったのか覚えてないけど、自分の役割を全うした結果なのかなって。ピッチの上での仕事じゃなかったけれど、みんなが喜ぶ姿と、それを見た自分の感情と。これで良かったんだなって思えましたね。誰もが味わえることじゃないんで。その裏で悔しい思いをしている人もチームにはいる。1週間前の天皇杯で優勝していたら、自分も悔しい思いを抱えていたかもしれないし。