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「161億円男」アザール32歳、ケガに苦しみ早すぎる引退…チェルシーで最強ドリブラーになれたのは“3人の名将”に学んだからこそ
posted2023/10/22 17:01
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph by
Takuya Sugiyama/JMPA
「内なる声に耳を傾けて、終わりだと決める時がきた」――。
エデン・アザールは、去る10月10日に自身の公式アカウントを通じたSNS投稿で現役引退を告げた。年齢は、「まだ」と言える32歳。16年前、リール(フランス1部)でトップデビューを果たした世界屈指のタレントは、プロ選手として感じさせた喜びだけではなく、哀しみも最大級となった。
マドリーの4年間は76戦7G12A→契約解除
最終クラブとなったレアル・マドリーへの移籍は、本人が引退発表メッセージで「叶えられた」と述べていた夢の1つ。レアルの偉人、ジネディーヌ・ジダンへの憧れは何度も公言していた。しかし、移籍早々からケガに泣き続けたベルギー人ウインガーは、在籍4年で76試合にしか出場できず、計7ゴール12アシストと本領を発揮できずじまいだった。
スペインでの計8冠には「夢」であったCLタイトルも含まれてはいる。だが、その一昨季優勝時、俗に「本当のCL開幕」と言われる決勝トーナメントでのピッチ上は、終盤にベンチを出た16強パリ・サンジェルマン戦ファーストレグ(0-1)での8分間だけ。皮肉にも、移籍1年目に同じ相手とグループステージで対戦した際に右足首に負ったダメージが、自身のキャリアにまで急ブレーキをかける結果となった。
チームの左アウトサイドには、ビニシウス・ジュニオールという新勢力が台頭してもいた。9歳上のアザールは、今年6月に1年前倒しで契約解除の運命に。約161億円を費やした獲得は、巨額の移籍金が当たり前のレアルでも「ワーストビジネス」といったところだろう。
2部ブライトン相手に見せた鮮烈な“名刺代わり”
だが、レアルに当時クラブ史上最高額を覚悟させた2019年までのチェルシー時代は、「ベスト」という言葉こそがふさわしかった。計352試合出場で110ゴール92アシストを記録した7年間、ほぼ一貫してプレミアリーグで「最高」だったと言ってもよい。
ドリブルで抜き去り、囲まれてもキープし、シュートにはミドルも、ラストパスには浮き球もあり、パネンカ(相手GKを跳ばせて、ゴール中央に浮かせたシュート)によるPKまで披露。「世界のピッチでプレーを楽しませてもらった」と言って身を引いたアザールは、観る側にとっても抜群に楽しみな選手だった。